研究課題
好中球二次顆粒欠損症 (SGD) は、骨髄系細胞特異的な転写因子であるC/EBPεの異常により引き起こされる先天性免疫不全症である。成熟した好中球が本来有すべきラクトフェリンなどの二次顆粒が欠損し、化膿菌に対し易感染性を示す。2015年に我々は世界で3例目、国内2例目となる新規C/EBPε遺伝子変異を有するSGD 症例を報告した。本年度は、患者好中球および単球の異常について解析した。SGD好中球では従来の報告通り、CD16発現が低下していた。CD16の2つのアイソフォームCD16aとCD16bの発現について検討したところ、SGD好中球では、通常の好中球に特異的に発現するCD16bは全く発現しておらず、発現しているCD16はCD16aと考えられた。通常、CD16aは単球やNK細胞に発現し、感染などでその発現が増強するとされる。実際、患者がインフルエンザに罹患した際には、好中球におけるCD16発現の増強が観察された。患者好中球では、通常は発現しないCD14が発現していることと合わせ、SGDにおいて好中球は分化異常に伴い、単球マーカーを異常発現することが明らかになった。今後、SGD好中球および単球を単離し、それぞれの遺伝子発現を検討する予定である。ただし、SGD好中球では二次顆粒が欠損しているため、比重に変化が起き、通常の比重分離法でSGD単球と分離することができない。フローサイトメトリー上、SGD好中球は側方散乱 (SSC)が低下しているため単球を避けるゲーティングが難しく、好塩基球の混入が予想異常に多いものの、条件を検討した結果、ソーティング法によりSGD好中球と単球を単離することが可能となった。今後、SGD好中球および単球の異常がより詳細に解明されることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、新規C/EBPε遺伝子変異を有するSGD症例の解析を通じて、SGDの病態を解明し、臨床に役立つエビデンスを作ることを目的としている。これまでに、本症例の新しいSGD発症メカニズムやSGD好中球における異常の特徴を明らかにしてきた。また、一連の研究が評価され、本症例の解析を含めたSGDの総説が、国際誌Crit Rev Immunol. 2016;36:349-358. に掲載された。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
我々が見出したSGD患者は、引き続き当科外来に定期通院されており、今後も、臨床像の検討ならびに患者検体を用いた解析を続けていく。特に、C/EBPε遺伝子が分化に関わる血球である、好中球、単球、好酸球の表面マーカーや遺伝子発現の解析から、C/EBPε遺伝子異常がもたらす血球分化異常の全体像を理解したいと考えている。SGDにおける好中球や好酸球は、ソーティング法により効率よく分離することが難しいことが予想されるため、単離を繰り返し、遺伝子発現解析などに必要な細胞数を確保する。また非感染時と感染症罹患時の比較から、異常な炎症性サイトカインの産生と病態の関係、そのメカニズムを解明し、新たな臨床指標の開発や治療手段の開発に繋げていく予定である。
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