研究課題/領域番号 |
15K09652
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平松 英文 京都大学, 医学研究科, 講師 (40362503)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 小児急性白血病 / microRNA |
研究実績の概要 |
近年様々ながんにおいてmicroRNA発現の異常が認められており、バイオマーカーとして期待が高まっている。本研究では、小児急性リンパ性白血病のmicroRNA(miR)の発現プロフィール解析の結果に基づき同疾患で高発現が認められたmiR-146aを含む3つのmicroRNA をピックアップして、それぞれに対するmicroRNA sensing vector virusを作成した。このsensor vector が細胞に導入されると 2 つのレポーター遺伝子、NGFR と GFP を発現するが、ターゲット microRNA が存在すればvectorに組み込まれたmiR binding siteを通して GFP の発現のみが低下し、フローサイトメトリーで細胞内のmiR発現レベルを可視化/半定量化できるシステムである。我々はbiding sitesを入れ替えることで、それぞれのmiR発現を可視化出来るsensor vectorの作成に成功した。様々な白血病細胞株にこのvectorを導入してmiR発現をスクリーニングしたところ、急性リンパ性白血病細胞株であるReh細胞株をはじめ、急性骨髄性白血病を含む複数の細胞株においてmiR-146a発現に多様性があることを見出した。Reh細胞株を用いてmiR-146a高発現分画と低発現分画をソーティングにより分取して、生物学的差異について検討を行ったところ、それぞれの分画において当該miR発現は長期にわたってほぼ一定量に維持されていることが示されたが、この実験系を用いることで初めて示された知見である。低発現分画において有意にコロニー形成能に差があることを見出したが、両細胞分画で遺伝子発現を網羅的に解析したところ、幾つかの遺伝子発現が有意に変化しており、それらのリストから想定される機能的差異についての検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究ではmicroRNA-126に対するsensor vectorを使用していたが、開発元であるNaldini lab (The San Raffaele Telethon Institute, Milan)との共同研究を通じて microRNA biding sitesを入れ替えることで本研究では新たな候補microRNAに対するsensor vectorを作成することに成功した。小児急性リンパ性白血病のmicroRNAの発現プロフィール解析の結果に基づき(国立成育医療研究センター 清河 信敬先生、unpublished data)、同疾患で高発現が認められたmiR-146aを含む3つのmicroRNA をピックアップして、それぞれに対するmicroRNA sensing vector virusを作成した。様々な急性リンパ性白血病細胞株で当該microRNA発現をスクリーニングしたところ、複数の細胞株で発現が不均一であることを見出した。また、急性骨髄性白血病株においても同様にmicroRNA発現が不均一な細胞株が存在することがわかった。いずれの白血病細胞株においても当該microRNA発現が高発現である細胞集団と低発現である細胞集団を分取してそれぞれを培養すると、数週間以上にわたって発現レベルが維持されていることから、一般に均一な集団と考えられている細胞株において、microRNA発現が不均一であることを見出した。 microRNA発現レベルの差がもたらす生物学的な変化につき、表面抗原、増殖速度、アポトーシス、薬剤感受性、免疫不全マウスへの移植を通したin vivoでの解析などを行っているが、現在、コロニー形成能に有意差を確認している。また、発現変動遺伝子解析を行い、生物学的差異とその分子額的背景について検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
Reh細胞株のみならず、いくつかの急性骨髄性白血病株においてもmicroRNA-146aの発現が不均一であることから、それらの細胞株についても高発現分画と低発現分画の生物学的差異についての検討をおこなう。すなわち、表面抗原、増殖速度、アポトーシス、薬剤感受性、免疫不全マウスへの移植などを通して、生物学的差異を明らかにするとともに発現遺伝子解析を行い、細胞株の種類によらず特定のmicroRNAの発現量の差によって引き起こされる共通の細胞内経路を明らかにし、治療ターゲットになりえないか検討を行う。現在は細胞株を用いた実験を中心に進めているが、今後、患者検体を用いてmicroRNA発現の多様性につき検討し、その生物学的意義を解析するとともに、治療ターゲットになりえるか、引き続き検討を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新たなmicroRNAに対するsensing vectorの作成が予定よりも順調に進行し、試薬の使用量が少なく済んだ。 マウスの基礎検討で有意差がはっきりと出なかったため、一旦マウスの使用を控え、実験計画を練り直した。
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次年度使用額の使用計画 |
新規にmicroRNA sensing vector virusを作成する。マウスへの移植系を細胞株を替えて引き続き行う。遺伝子発現解析を予定通り行う。
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