ダイアモンド・ブラックファン貧血(DBA)は、リボソームタンパク質(RP)遺伝子の変異により発症すると推測される。患者の約60%で、これまでに19種類のRP遺伝子のいずれかの変異が確認されたが、発症機序の解明は進んでいない。本研究では、ゼブラフィッシュのDBAモデルを用いて、RP遺伝子の変異に伴って翻訳が抑制される遺伝子に着目し、リボソームがmRNA選択的に翻訳量の調節を行うメカニズムの解明を目指した。 ゼブラフィッシュのDBAモデル(rps19遺伝子抑制胚)を用いて、網羅的に遺伝子の翻訳効率を解析した。その結果、75個の遺伝子は翻訳レベルで発現量が50%以下に抑制されることが示唆された。その中には、造血に関連する遺伝子の他に、糖鎖修飾に関与する遺伝子も複数含まれていた。その一つについて、mRNAをin vitro合成しDBAモデルに注入したところ赤血球造血が回復した。ヒト細胞においてこの遺伝子の発現を解析するために、K562細胞を用いてsiRNAによりRPS19およびRPS15A遺伝子をノックダウンした。mRNA発現レベルが低下していることを確認したが、タンパク質レベルでの発現低下は確認できなかった。今後は、RP遺伝子の発現を安定的に低下させるために、ゲノム編集による細胞モデルの作製を試みる。 また、ゼブラフィッシュにおいてRPS19遺伝子の変異体の作製を試みた。gRNA/Cas9タンパク質をインジェクションした胚の10%程度で生殖細胞でのゲノム編集が起こると推測された。これまでに7種類のin/delをヘテロ変異でもつ個体が得られた。このうち1種類はF2まで継代した。ヘテロを掛け合わせて得られるホモ変異の胚では明らかな貧血を示すことを確認した。今後は、患者型変異をもつモデルを用いて遺伝子の翻訳効率を解析し、DBA発症の分子メカニズムの解明を目指す。
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