研究実績の概要 |
ヒト顆粒球(好中球・好酸球)表面に発現するシアル酸受容体Siglecが活性化顆粒球にもたらす細胞死の分子学的機序について探索を行った。 好酸球に発現するSiglec-8は、活性化サイトカインであるIL-5存在下に逆に細胞死が増強する。研究代表者はこれがERKリン酸化と細胞内優位のROS産生増多に依存したイベントであることをすでに報告している。今回、細胞内ROSの産生機序を同定すべく、ミトコンドリアとNADPHオキシダーゼ(NOX2)の関与を検討した。他の細胞死イベント(ETosis)でみられるミトコンドリア膜電位変化、ミトコンドリアROS産生増多は認めず、Siglec-8誘導性細胞死においてミトコンドリアの関与は限定的であった。NOX2の関与については、活性化サブユニットであるp40phox, p47phoxのリン酸化をいずれも認めたが、これもETosisでみられるリン酸化に比し、弱いものであった。gp91phoxについては、ETosisやPMA刺激ではその表面発現が増加するのに対し、Siglec-8/IL-5刺激では、細胞内ROS産生が増加している状態でも表面発現は一定であった。これらより、NOX2が細胞表面に露出しない形での特殊な活性化が、細胞内優位のROS増多に関与することが示唆された。 好中球についても、他の研究グループより同様に、活性化サイトカインであるGM-CSF存在下で、Siglec-9刺激による細胞死増強が報告されている。しかし今回Siglec-8と同様にモノクローナル抗体を用いたSiglec-9刺激を行ったところ、その細胞死誘導効果はSiglec-8によるものほど顕著ではなかった。好中球におけるNOX2は元来、好酸球よりも細胞内優位のROS産生をしているため、増強効果が得られにくいことが推測され、好酸球と好中球の生理的役割分担を考える上で新たな示唆が得られた。
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