研究課題/領域番号 |
15K09664
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
矢田 弘史 奈良県立医科大学, 医学部, 特任助教 (30635785)
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研究分担者 |
野上 恵嗣 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (50326328)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インヒビター / 血友病 / 第VIII因子 / 活性化・不活性化 / 活性化第VII因子 / 第X因子 |
研究実績の概要 |
新たなバイパス止血製剤(FVIIa/FX複合体製剤:FVIIa/X)によるFVIII活性化・不活化機序におけるインヒビターの影響について、包括的凝固機能検査(ROTEM)や凝固一段法、Western blot法を用いて評価した。インヒビター保有血友病A患者の全血及び血漿にFVIIa/XまたはrFVIIaをex vivoで添加して凝固能を評価した。FVIIa/Xは、rFVIIaに比して凝固能をより改善し、更に、TF依存的にArg372とArg740の急速な開裂によりFVIIIを活性化し、約30分間その活性を維持することを証明した。その活性化は、さらにインヒビター存在下でも生じ、抗体特性に非依存的であった。以上から、FVIIa/Xは、FVIIとFXによりFVIIIを直接活性化し、rFVIIaに比して相乗的に凝固機能を増強することがわかった。
一方、軽症・中等症血友病AにおけるFVIIIの凝固機能及び免疫原性とF8遺伝子変異との関連について凝血学的、分子生物学的手法を用いて検討した。当教室において世界で初めて同定したF8変異は、立体構造上の変化を通じ、変異とは離れたFVIII軽鎖のC2ドメインでPL及びVWFとの結合障害によって軽症血友病Aの原因となること、更に、自己と非自己のFVIIIを区別するインヒビターの発生に関連することを証明し、原著論文(Yada K. et al, J Thromb Haemost 13(10),2015)に報告した。また我々は、インヒビター発生に関連する血友病Aとして報告例の多いArg593Cysを伴う軽症血友病Aの同胞例を経験し、その凝固障害機序を検討した。その結果、Arg593Cysでは変異部位から離れたC2ドメインにおける構造変化をきたし、PLとの結合親和性が低下すると考えられ、第37回日本血栓止血学会学術集会(2015年5月)にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) FVIIa/FX複合体製剤によるFVIII活性化機構について インヒビター保有血友病A患者について、FVIIa/FX複合製剤による凝固機能改善効果が微量のFVIIIが共存するとFVIII非存在時よりもさらに増強すること、またその増強効果は、FVIIa単独よりも優れることをROTEMを用いて全血凝固機能を評価することにより証明できた。さらに、トロンビン生成試験によって血漿レベルでも同様の傾向を示すことが証明できた。
2) 軽症血友病Aにおけるインヒビター発生機序について 当教室において初めて同定したFVIIIのミスセンス変異 Pro1809Leuを伴う患者に発生したインヒビターについて、その特性を詳細に解析し、また患者の変異FVIIIを純化精製系により発現し、FVIIIの凝固障害メカニズムについて検討した結果を原著論文にて報告することができた。また、インヒビター発生との強い関連性が知られているFVIII重鎖A2ドメインにおけるミスセンス変異であるArg593Cysを有する当科症例における凝固障害機序について解明し、その成果を学会にて公表することができた。これらの成果は、今後更に純化精製系による発現FVIIIを用いて、よりFVIII特異的な凝固障害機序及びインヒビター発生機序を証明する上で極めて重要な礎となった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に基づいて、平成27年度の結果を基礎としながら研究を継続していく方針である。 FVIIa/FX複合体製剤によるFVIII活性化機構については、さらにより多くの症例を対象に検証を進め、包括的凝固機能を含めた凝血学的特性を解析することにより、外因系及び内因系凝固因子のクロストークに関する知見をより深める。 また、非重症型(軽症・中等症)血友病Aにおけるインヒビター発生機序について、より重点的に検討を進める。さまざまな軽症・中等症血友病A患者のF8遺伝子変異を同定し、異なる遺伝子変異をもつ患者FVIIIの凝血学的特性を、患者血漿または純化精製系により発現して得たFVIII変異体を用いて、種々の凝固機能検査を通じて明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の使用額はおおむね使用しており、研究も順調に進行することができた。さらに使用したい試薬が昨年度ではこの金額よりも若干大きい金額であったため、表示の残額を示した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の使用額(B-A)は次年度の所要額に合わせて、実験の試薬等の購入に使用していく予定である。
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