研究課題/領域番号 |
15K09667
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
早川 潤 日本医科大学, 医学部, 講師 (10386196)
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研究分担者 |
植田 高弘 日本医科大学, 医学部, 准教授 (20322505)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脂肪由来骨髄間葉系幹細胞 / 骨髄不全症 / 造血支持組織 |
研究実績の概要 |
近年、脂肪組織にも骨髄由来の間葉系幹細胞と同じような働きをもつ細胞の存在が報告されいる.脂肪由来間葉系幹細胞(Adiposed tissue-derived stem cell : ADSC)は未だ多くの生物学的特性は未知であるが,少ない侵襲で骨髄由来の間葉系幹細胞に比べて大量の幹細胞を採取できるため、非常に注目されている。骨髄不全症などで脂肪幹細胞が移植後の造血回復にどの程度関与するか評価し、造血幹細胞移植に組み合わせて移植成績の向上につながるかを検討する。他グループで報告された作成法で細胞作成を始めたが、in vitroでの安定した脂肪組織間葉系幹細胞を樹立することが最初の課題であった。作成効率やコンタミなど改良に難渋したが、ようやく安定して作成できるようになった。その細胞の解析を進めるとともに、本年度からはin vitroの実験に加え、マウスから樹立した脂肪幹細胞で動物実験に移行することもできた。サイトカインの組み合わせ、培養液やMEDIUMの組成を工夫したのに加えコラゲナーゼ処理と反応時間を工夫することで細胞接着の問題を解消しADSCの質が担保された。またマウス血管炎モデルをもちいてADSCが炎症の回復にどの程度役に立っているか解析をすすめている。これまでの報告でADSCには抗炎症・免疫抑制作用・組織修復作用を持つことが指摘されいたが、血管炎の抑制を図れるか検証している。造血回復時の骨髄自体の評価をする前に移植後のレシピエントマウスの造血回復時の末梢血解析と皮膚GVHDや血管炎の状況を検討した。実際には移植後4週間たったマウスから血液採取し造血回復をチェックすることとサイトカインアレーをもちいて炎症性サイトカインの動きをバイオプレックスを使用して評価している。また骨髄組織の病理学的評価を現在進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
in vitroでの安定したマウス由来脂肪組織間葉系幹細胞(ADSC)の樹立に関しては、培養上成功していても動物実験移行時にレシピエントマウスが痙攣する事が多く、それは細胞が単離できておらず梗塞を起こしたことが考えられた。コラゲナーゼ処理を行いその反応時間を工夫することでようやく細胞間接着の影響がとれ安定した細胞を得成功率はおよそ60%前後まで向上している。 in vitroの実験に加えマウスから樹立した脂肪幹細胞で動物実験に移行することもできた。まずはADSCをマウスに移植しレシピエントマウスの反応と移植後1ヶ月4ヶ月の骨髄の解析ならびに各血球細胞への影響、GVHDの有無などを検討した。移植後の体重や脾臓の沖差皮膚の状態は無処置のレシピエントマウスにADSCを投与しても変化は無いので同種細胞移植時に激しいGVHDは起きないことが推測された。また我々のラボにすでにある血管炎モデルマウスの血管炎回復時にADSCを投与して脂肪幹細胞の炎症部位への関与ならびに造血支持組織への関与を調査することもおこなった。炎症性サイトカインである IL-1b, TNF-a, IL-13, IL17 がADSC投与群で有意差をもって,低下を認めている。移植マウスの骨髄の確保は微少であることもありフローサイトメーターを用いた解析などはこれから進めていくところである。サイトカインアレーでADSC投与時にどのような血清の変化が起こるのか?それがGVHDにどのように関与するのかを慎重に検討している。また骨髄支持組織の造血回復時の変化をみるために骨髄病理の評価法を試行しているが、脱核するとうまく免疫染色ができなくなることが現在の問題点である。
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今後の研究の推進方策 |
ようやく安定した脂肪組織由来骨髄幹細胞が樹立できるようになった。動物実験はまずはマウス由来脂肪幹細胞移植を前処置無しのマウスに移植するとどうなるか、また血管炎モデルマウスで造血回復時に各種免疫成分がどうなるかを検討している。放射線など様々な骨髄破壊的な前処置をしてADSCを移植し造血回復を骨髄のみ、ADSC+骨髄、骨髄由来の間葉系幹細胞(MSC)+骨髄の3群で比較検討することを次に考えている。さらにA-ZIP/F1マウス(2009 nature)などの造血不全症モデルマウスの入手が可能になれば同系列のマウスADSCを移植時に使用してMSC併用時と比較検討していきたい。 現在もっとも難渋しているところは骨髄の病理検体の扱いである。骨髄不全症の造血幹細胞の生着を阻害している最も重要なところは支持組織の未熟性であるといわれ、ADSCはその支持組織の回復に寄与することが予想されるが、レシピエントマウスにおける小さな骨組織で脱核する技術やその後の細胞内マトリックスを見るための免疫染色の方法など骨髄の病理学的評価は非常に難しい。現在は移植後4週間で評価しているがT細胞系の造血再構築が遅延しがちなので今後6ヶ月ほど長期フォローのマウスでも評価する必要があると考えている。 またヒト化マウスを用いた脂肪由来骨髄細胞のアッセイ系も確立し、ヒト化マウスを用いた移植実験を始めたい。ヒト細胞を用いるのでマウスtoマウスの結果がある程度得られた後に実験計画を修正して倫理委員会への実験計画の提出する予定である。将来的には実際の造血不全症の患者が発生した場合、患者からの同意が得られれば臍帯血ないし骨髄細胞を凍結保存し、脂肪組織由来細胞が移植時に有効であるか評価できるところまで検討できるようしていきたい。本年は本グラントの最終年度であるが準備を進めることで次期プロジェクトのseedsになると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)in vitroでの脂肪由来間葉系幹細胞の樹立に難渋したため、動物実験にかかる費用ならびに動物移植実験時に必要となるMACS beadsやフローサイトメーターや免疫染色で使用するための各種抗体の購入に必要な費用が未使用な状態である。また骨髄病理検体の処理が困難でその検討に費用がかかりそうなため。(使用計画) 動物実験が開始されればとくにマウス購入費や細胞ソーティングに必要なMACS beads、各種抗体で経費がかなりかかると考えられる。またサイトカインアレーを使用するが、プレートが高価なためそちらにも使用する。A-ZIP/F1マウスが入手できれば高価であるため費用がかかり、細胞培養に必要な各種サイトカインと実験に使用可能なヒト臍帯血も実施計画を検討した上で必要量購入をすすめたい
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