研究実績の概要 |
1. 私たちは世界で初めて,ウイルス学的に証明されたアシクロビル(ACV)耐性単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によるヘルペス脳炎(新生児ヘルペス患者)を報告した(Kakiuchi, S, et al. JCM, 2013).その患者の脳脊髄液中に認められたHSV-1のチミジンリン酸化酵素(vTK)遺伝子中のQ125H変異を有する組換え単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)をF株由来BACシステムを用いて当該組換えウイルスを作出した.この変異は実際にACVに耐性を誘導することを証明した.そのACV耐性HSV-1はマウス脳内接種による神経病原性を調べたところ,比較的高い病原性が維持されていることが明らかになった. 2. Q125H変異を有する組換え単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は間接的な評価ではペンシクロビルやガンシクロビルに感受性であると推測されていた(Kakiuchi S, et al. J Clin Microbiol ;51(1):356-9, 2013).しかし,それは確かにACVに耐性を示したものの,さらにペンシクロビルやガンシクロビルにも交差耐性を示した. 3. ACV耐性HSV-1による脳炎患者の脳脊髄液中に検出されたvTK遺伝子のACV耐性化の責任遺伝子として報告されたR41HとA156Vの変異はACV耐性を誘導しないことが証明された. 4. 遺伝子組換え技術を用いて,HSV-1のvTK遺伝子を水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)のvTK遺伝子に組換えたウイルス(VZV-HSV-1vTK)を作出した.また,同様にHSV-1のvTK遺伝子を挿入させた組換えウイルス(HSV-1-HSV-1vTK)も作出した.ACV存在下でACV耐性ウイルスを作製したところ,VZV-HSV-1vTKの場合,すべてDNAポリメラーゼに変異が入り,それが耐性を誘導する原因であった.一方,HSV-1-HSV-1vTKのACV耐性株の場合,すべてがvTK遺伝子に変異が挿入されていた.VZVのvTK関連ACV耐性化は,極めて起こりづらく,ACV耐性VZV感染症の報告事例が少ないことに関連していると考えられた.
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