慢性肉芽腫症(CGD)は、NADPHオキシダーゼの活性酸素種(ROS)産生障害により、易感染性と慢性炎症(肉芽腫形成、CGD腸炎(広義の炎症性腸疾患)など)をきたす原発性免疫不全症である。慢性炎症について、いくつかの機序が報告されているが、未だに詳細は不明である。NADPHオキシダーゼは食細胞に発現する複合分子であるため、本研究では炎症を制御する単球/マクロファージの機能解析を行い、CGDにおける慢性炎症の機序について検討を始めた。 これまでの研究結果から、CGDの慢性炎症には単球のROS産生能の低下が示唆された。しかし、感染防御や慢性炎症を回避するために必要とされる最低限のROSの閾値については、不明であった。今回、NADPHオキシダーゼを構成するgp91phoxの新たな変異を発見した。分子生物学的な解析の結果、本変異は、mRNAの不安定性からgp91phox発現が低下するともに、全ての単球と好中球のROS産生をわずかに低下させることが明らかとなった。また、同変異を有する好中球は、典型的なCGDよりもROS産生が維持されているにも関わらず、健常者でみられるROS産生の比較的強い好中球のグループが欠損していた。実際に、同変異を有する患者は、BCGリンパ節炎や非定型抗酸菌性肺炎、炎症性腸疾患(IBD)などCGD患者と類似した臨床経過を示した。一方、正常好中球と異常好中球が混在するCGD保因者では、IBDの報告はみられないことから、細胞数が少なくとも正常レベルのROSを産生する好中球の存在が、慢性炎症の抑制に寄与することが示唆された。CGDの遺伝子治療では、長期的に高い遺伝子導入効率を維持することは期待できないが、遺伝子導入細胞は正常レベルのROSを産生するため、遺伝子治療はCGDの病態を改善する可能性があると考える。
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