研究課題/領域番号 |
15K09680
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
堀米 仁志 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50241823)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遺伝性不整脈 / 先天性QT延長症候群 / 心電図 / 独立成分分析 / 主成分分析 |
研究実績の概要 |
申請者が所属する筑波大学附属病院、茨城県立こども病院をはじめとする茨城県内の施設および全国の小児循環器科医師が所属する施設から新たに登録された先天性QT延長症候群(LQTS)やその他の遺伝性不整脈の小児例を対象として、既知の遺伝子変異(LQTSではLQT1~13)についてシーケンサでスクリーニングする体制が整い、10例の不整脈症例の解析から開始した。また、以前に登録されていた症例で遺伝子検査が未施行の症例についても、家族、親権者の同意のもと、当大学にて遺伝子検査を行い、一部で遺伝性不整脈関連の変異が新たに検出された。これらの結果をもとに、心電図を含めた臨床像と遺伝子変異の結果を統合することにより、それぞれの遺伝子型による臨床的特徴が明らかになりつつある。 特徴的な症例として電解質異常(低カリウム血症)を来す代謝性疾患に、SCN5A遺伝子のmodifier変異があるためにQT時間が延長している症例や、早期から心房静止を呈し、心房心筋症を伴ったSCN5A遺伝子変異の幼児例など、稀少な病態を呈する症例も含まれた。 また、我々のグループで開発した新しい心電図波形解析の研究領域では、新たに2,000ヘルツのサンプリングを可能とするアンプを当科研費にて購入したことにより、精度の高い解析が可能となった。はじめにLQT7型(Andersen-Tawil症候群)5例を対象として、T波、U波の主成分分析(PCA)と独立成分分析(ICA)を行い、LQTS1型および健常者の結果と比較した。その結果、LQT7とLQT1では健常者に比べてPCA ratioが高値を示し、ICAでは過剰な独立成分が検出された。また、LQT7ではT波とは独立したU波を構成する独立成分が検出された。LQT7におけるU波の成因は未解明であるが、本法は有用な情報を提供する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先天性QT延長症候群を代表とする遺伝性不整脈の既知遺伝子をスクリーニングする体制が整ったことで、以前から症例登録されていたが、遺伝子検査未施行だった症例や遺伝子変異が検出されていなかった症例から新たに変異が検出され、遺伝子スクリーニングを開始することができた。その結果をもとに、LQTSを中心に、小児期の遺伝性不整脈の遺伝子変異と臨床像の関連解析を進めることができた。 また、周波数2,000ヘルツのサンプリングを可能とする新型のアンプを購入し、遺伝性不整脈疾患の心電信号の解析を始めることができた。その結果、従来の機種よりも詳細で精度の高い波形解析が可能となった。LQTSでは健常者に比べてPCA ratioが高値を示し、ICAでは正常より多くの独立成分が検出された。特に新しい知見として、LQT7症例においてU波を構成する独立成分が検出されることが示された。 以上の成果から考えて、本研究の現在までの進捗状況はおおむね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
1) 平成27年度の計画にある1)~4)の研究は引き続き実施するが、重点的に行う項目の一つは、小児期(特に乳児期)に発症する遺伝性不整脈について、遺伝子型未解明例の遺伝子検査を行い、臨床情報と遺伝情報をもとにした個々のタイプの管理指針の確立を目指すことである。 もう一つの重点的推進項目は、新たに購入した2,000ヘルツのサンプリングを可能とするアンプを用いた心電図波形解析である。従来の機種よりも精度の高いデータが得られ、詳細な解析ができるため、多くの遺伝性不整脈症例に適用して心電図の独立成分分析、主成分分析を行うことによって、QT時間の判定が難しい症例の診断、遺伝子型の推測、心室不整脈発生予測における同法の有用性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンサを用いた遺伝性不整脈症例の遺伝子解析の開始時期が平成27年度の後半となったため、すでに保存されているDNA検体のすべてを解析する時間的余裕がなかった。また、新しい機種を用いた心電図解析に関しては、新型のアンプの購入に際して入札等に時間がかかり、納品されたのが年度後半の遅めになったため、機器とソフトウェアの調整に時間がかかり、十分な症例数に用いることができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次世代シーケンサによる遺伝子解析、デジタル心電図解析ともに、症例数を増やして解析を進めるため、その消耗品購入に充てる。また、デジタル心電図解析に関しては、他の協力施設の症例のデータも提供してもらうため、初期には申請者が該当する施設へ出張する必要があり、旅費にも使用する予定である。
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