研究課題
筑波大学附属病院、茨城県立こども病院を中心とする茨城県内の病院および小児循環器科医師が所属する全国の病院から登録された先天性QT延長症候群(LQTS)・その他の遺伝性不整脈および心筋症の小児例を対象として、既知の遺伝子変異(LQTSにおいてはLQT1~13)のスクリーニング検査を継続した。H28年度末までに33例の不整脈症例(LQTS 27例、徐脈性不整脈4例、ブルガダ症候群疑い1例、心室細動1例)、突然死症例3例、心筋症4例の計40例の解析を行った。その結果、以前に早期発症LQTSの全国調査で登録されていたが遺伝子検査が未施行であった症例を含め、遺伝性不整脈関連の変異が新たに検出された。特記すべき症例としてGitelman症候群でQT延長を伴った症例に修飾因子としてのSCN5A遺伝子の一塩基多形が検出された症例や、幼児期から洞不全、心房静止を呈し、心房心筋症を伴ったSCN5A遺伝子変異の症例、典型的Timothyの症候を有さないLQT8型の家系など、報告の価値のある稀少な病態を呈するものがあった。また、新しい心電図波形解析の研究領域では、2,000ヘルツのサンプリングを可能とするアンプを当科研費にて購入したことにより、精度の高い解析が可能となった。複数のタイプのQT延長症候群を対象として、再分極過程の不均一性を評価している。LQT7型(Andersen-Tawil症候群)については他大学の協力も得て、症例を増やして解析中であるが、T波とは独立したU波を構成する独立成分が共通して検出された。LQT7におけるU波の成因は未解明であるが、本法は有用な情報を提供する可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
遺伝性不整脈や心筋症の既知遺伝子をスクリーニングする体制が整ったことで、以前から症例登録されていたが、遺伝子検査未施行だった症例や遺伝子変異が検出されていなかった症例から新たに変異が検出されたり、過去に報告されていない新たな知見が得られている。これらの結果をもとに、LQTSを中心に、小児期の遺伝性不整脈の遺伝型と表現型の関連解析を進めることができた。また、周波数2,000ヘルツのサンプリングを可能とする新型のアンプを用いることにより、従来の機種よりも詳細で精度の高い波形解析が可能となり、検査症例数も増え、不整脈の診断や発生機序などに新しい知見が得られつつある。得られた主な知見は、LQTSでは健常者に比べてPCA ratioが高値を示し、ICAでは独立成分の数が多く検出され、再分極過程の不均一性を示していること、U波を構成する特異的独立成分がLQT7の診断に有用であることなどである。以上の成果から考えて、本研究の現在までの進捗状況はおおむね順調と言える。
平成28年度に進めた研究は引き続き実施するが、29年度重点的に行う項目の一つは、小児期に発症する遺伝性不整脈について、遺伝子型未解明例の遺伝子検査を行い、臨床情報と遺伝情報をもとにしたテーラーメイドの管理指針の確立を目指す。また、高精度アンプを用いた心電図波形解析は、従来の機種よりも精度の高いデータが得られ、詳細な解析ができるため、多くの遺伝性不整脈症例に適用して心電図の独立成分分析、主成分分析を行うことによって、QT時間の判定が難しい症例の診断、遺伝子型の推測、心室不整脈発生予測における同法の有用性を検討する。
既にさまざまな不整脈や心筋症症例のDNAが多数保管されているため、すべてを解析する時間的余裕がなかった。また、新しい高精度アンプを用いた心電図解析に関しては、実質的にアンプが使用できるようになったのが平成27年度であったため、十分な症例数に用いることができなかった。また、他大学の協力を得るための倫理委員会申請も時間を要した。
次世代シーケンサによる遺伝子解析、デジタル心電図解析ともに、症例数を増やして解析を進めるため、その消耗品購入に充てる。また、デジタル心電図解析に関しては、他大学の症例のデータも提供してもらうため、申請者および研究協力者がそれぞれの施設へ出張する必要があり、旅費にも使用する予定である。
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