研究課題/領域番号 |
15K09701
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
小松 陽樹 東邦大学, 医学部, 准教授 (80424711)
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研究分担者 |
舘野 昭彦 東邦大学, 医学部, 教授 (10138993)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | B型肝炎 / 母子感染 / 変異ウイルス / ワクチン / 感染予防 |
研究実績の概要 |
1986年から始まった厚生省「B型肝炎母子感染防止対策事業」により、B型肝炎ウイルス(HBV)による母子感染は激減した。しかし、この抗HBs免疫グロブリン(HBIG)とHBワクチンを用いたHBV母子感染の感染阻止率は約90%であり、約10%において母子感染が成立する。母子感染が成立すると多くの場合は持続感染となり、肝硬変、肝がんのリスクを一生涯背負うこととなる。感染予防措置を施行したにもかかわらず母子感染が成立する要因としては、胎内感染や不適切な予防措置などに加えて、中和抗体である抗HBs抗体から逃避するエスケープ変異株の出現が報告されている。
感染防止に最も重要な役割を果たす中和抗体の抗HBs抗体は、S抗原に位置する共通抗原決定領域に結合して感染防御の効果を示す。しかし、その共通抗原決定領域に変異があると、HBs抗体の結合能力が低下して、感染防御の効果も低下する。この変異を持つウイルスはS抗原変異株と呼ばれている。通常、B型肝炎ウイルスは変異を持たない株と変異を持つ株が混在している。母子感染予防不成功例の約10-20%にS抗原変異株が検出されるが、これらはサンガー法(従来までの塩基配列解析方法)で検出できる多数派株(major clone)である。しかし、サンガー法では検出できない少数派株(minor clone)として存在するS抗原変異株と予防不成功との関連は明らかではない。特に高ウイルス量の場合は、少数派株であってもS抗原変異株の臨床的な意義は大きい。
本研究の目的は、少数株として存在している S抗原変異株が予防不成功と関連しているか否かを明らかにすることである。少数派株の変異株が予防措置不成功と関連していた場合、核酸アナログを用いた新たな母子感染予防方法への変更を推奨するデータとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗HBs抗体から逃避するエスケープ変異株は多数存在し、世界各国からさまざまな遺伝子変異を有する株が報告されている。その中で最も出現頻度が高く、ワクチン不成功と強い関連が示唆さているG145R変異株を研究対象とした。次に、G145R変異株を簡単に検出できる方法の確立を最初の目標とした。可能な限り安価な方法の確立を目指し、独自に開発するのではなく、市販されている製品で一塩基の違いを認識できる特異性の高いプローベを採用して、リアルタイムPCRを用いて変異株の検出を試みた。この方法は期待通りにG145R変異株を検出することが可能であった。確立された方法のG145R変異株の検出感度は、野生性株(変異がないウイルス株)の中に占める変異株の割合が約1%程度でも検出可能であった。現在、この方法を用いて、ワクチン接種歴や治療がない慢性B型肝炎患者と母子感染予防措置成功例を解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
今回確立したリアルタイムPCR法にてG145G変異株が検出された症例を対象に、次世代シークエンサーを用い、本当に変異株が存在するのかを検証する予定である。また、次世代シークエンサーにて、母子感染予防不成功例を対象に、G145R変異株以外のエスケープ変異株の存在を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
帳簿では助成金に残高があるが、実際はすでに年度予定以上の研究費用を使用している。1回のdeep sequencing代金が約50万円であり、deep sequencingを依頼した時点での残高は約40万円弱であった。したがって、該当年度の助成金では全額支払いできないため、取引業者と交渉して次年度支払いの約束でこの1回分を未払いの状態にしている。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由により、未使用額はdeep sequencing代金として使用し、平成28年度分は試薬の購入、解析費用、学会参加の旅費に使用する予定である。
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