研究実績の概要 |
[目的]生来健康な乳児に、数日の感冒様症状に引き続き突然に僧帽弁の腱索が断裂し、急速に呼吸循環不全に陥る疾患が存在する(Shiraishi et al., Circulation. 2014;130:1053-61)。本疾患は原因が不明で、報告例のほとんどが日本人であるという特徴をもつ。発症早期に的確に診断され、適切な外科治療がなされないと、急性左心不全により短期間に死に至ることがある。原因として、ウイルス感染(心内膜心筋炎)、母体から移行した抗SSA抗体、川崎病(回復期)などが考えられるが、病因と病態の詳細は不明である。 [実施計画]本疾患の原因と考えられる細菌やウイルスなどの微生物の遺伝子、SSA抗体により活性化されたシグナル伝達分子を、過去のパラフィン切片( FFPE)からRNAを抽出し、RNA キャプチャー法を利用して網羅的にメタゲノム解析を実施した。 [方法] 発症4日目の腱索断裂1例の新鮮固定標本からウイルスのメタゲノム解析を行った。また腱索断裂4例と対象2例の僧帽弁FFPE切片からRNAを抽出し、腱索断裂組織のRNAトランスクリプトーム解析を行った。抗SSA抗体の関与についても検討した。 [結果]メタゲノム解析では、病因と確定できるウイルスや微生物のゲノムは検出されなかった。また6症例のFFPE腱索組織のトランスクリプトームでも、これまで本疾患に特徴的な発現遺伝子のパターンは得られていない。抗SSA抗体の特異的証拠も得られてない。 [結論]メタゲノム解析およびFFPEからのRNAトランスクリプトーム解析は、病変部から原因となる微生物や発現遺伝子を解析することが可能で有力な手段であるが、今回の検討では症例数とサンプル量が少なく、本疾患の核心に至る所見は得られなかった。今後さらに症例数を重ねて、本疾患の病因と病態に迫り的確な治療および予防に繋げる予定である。
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