研究課題/領域番号 |
15K09707
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
宮坂 尚幸 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (70313252)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 先制医療 / DOHaD / エピゲノム / 周産期 |
研究実績の概要 |
超高齢社会を迎えた本邦において、生活習慣病などの慢性疾患を個別に予防する先制医療の実現は喫緊の課題である。近年、胎児期を含む出生前環境が胎児のエピゲノム変化をもたらし、これが将来の生活習慣病発症に大きく影響するという成人病胎児起源(DOHaD)仮説が注目されている。しかし、日本人コホートにおいて、どの様な母体環境が、胎児にどの様なエピゲノム変化を引き起こし、それがどの様な相互作用により生活習慣病発症のリスク因子になるかについてのデータは集積されていない。 本研究は先制医療実現を最終目的として、日本人を対象とした母子コホートを立ち上げ、母胎環境要因と胎児、新生児、妊娠女性のエピゲノム変化との関連性を明らかにすることを第1の目的とし、また新生児期に認められたエピゲノム変化と将来の生活習慣病発症リスクとの関連性を明らかにすることを第2の目的としている。 本研究では出生前コホートを新規に立ち上げ、当施設にて分娩予定で、産後の調査も可能と判断された妊娠初期症例を対象に、必要な情報を収集しながら前方視的に追跡する体制を確立し、症例登録を現在も進めている。周産期外来における母体、胎児、新生児の診療情報収集はもとより、フードダイアリを用いた妊娠中の食事調査、成育歴調査、睡眠調査、妊娠初期・後期・産褥期のメンタルヘルス、ストレス調査を実施してデータを集積し、専門の研究協力者により逐次解析を行っている。また妊娠初期・後期の母体血、臍帯血を収集し、本学バイオバンクに保存している。また、本研究の成果を実臨床に応用するためには、生後間もない新生児の少量の生体試料からDNAのメチル化解析を行う必要があることから、先天代謝異常スクリーニングに用いられた使用済みのマススクリーニング濾紙血も合わせて解析を行い、特に臍帯血と濾紙血DNAメチル化レベルを比較している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は母児を前向きに長期追跡するコホート研究であり、研究内容の説明と同意の取得、多岐にわたる情報の管理と解析、採取された検体の管理と分析など、研究計画が複雑であることから、遂行にあたり多くの懸念があったが、各部署の協力と研究協力者の献身的な努力により、一連の研究実施方法が確立され効率的に運用することが可能となった。現在までの研究参加者の100名を超え、同意取得率は60%以上であり、また研究参加者からの必要な情報収集、必要な生体試料採取は問題なく実施することができている。出産後も子育てに関するニュースレターなどを郵送して研究参加者との関わりを継続することで、母体の産後の経過や母乳育児の実態、児の発達発育データの収集も順調に行われている。また、新生児マススクリーニング時の濾紙血からDNAメチル化解析に必要な質と量(数百ng)のDNAが安定的に単離でき、特に臍帯血の採取が困難な場合の試料としての有効性を示すことができた。 本研究でのDNAメチル化解析では、一部の症例にメチレーションアレイInfinium MethylationEPIC Bead chipによる全ゲノムアプローチを適用し、全例に質量分析に基づく定量メチル化解析EpiTYPER法による候補遺伝子アプローチを適用している。これまでの予備的解析において、妊娠中期(20週前後)と後期(36週前後)の母体末梢血のDNAメチル化レベルを全ゲノムで比較したところ、免疫細胞の機能段階に関連して発現が変動する遺伝子などのDNAメチル化に変化が現れる可能性が示唆された。また、20人の健常新生児DNAメチル化個人差についてその数を見積もったところ、メチレーションアレイ上で、約1450箇所のvariably methylated region (VMR,隣接する複数のCpG部位が単位として変動する領域)が存在することがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度も研究参加者のリクルートを継続する予定であり、年間の同意取得数の増加を目標とする。母体血、臍帯血、臍帯、新生児濾紙血のDNAメチル化解析数(サンプルサイズ)を増やし、さらにできる限りの遺伝子多型解析を行う。全ゲノムアプローチにおいては、白血球細胞成分および、遺伝的多型データで調整を行い、本研究で可能な限りの環境因子との関連を探る。母体・胎児・新生児の臨床情報、妊娠中の食事、成育歴、妊娠初期・中期・後期のメンタルヘルス、ストレスなどが環境因子となる。候補遺伝子アプローチにおいては、関連する遺伝子多型を個別に調べる。候補遺伝子アプローチでは、細胞組成を推定する方法が確立されていないのが、全ゲノムアプローチと異なる点である。メチレーションアレイでは、搭載されている多数のプローブを用いた一般的な細胞組成推定方法が開発されているが、候補遺伝子アプローチでは、それに相当するものがない。そこで、本研究では、独自にDNAメチル化マーカーを用いた臍帯血および母体血の細胞組成推定方法を開発し、それによって得られた細胞組成推定値を用いて調整を行う。胎児・新生児のエピゲノム変化とその後の発育・発達との関連性については、研究参加者に郵送もしくは電子媒体によるアンケート調査を継続し、母子手帳に記載された新生児・乳児の情報を収集し、臍帯血もしくは臍帯から得られたゲノム・エピゲノム情報と比較検討する。また妊娠によって発生する母体のエピゲノム変化を明らかにし、母体基礎疾患の関与、あるいは妊娠合併症に与える影響を検討する。また臍帯血と濾紙血のエピゲノム情報の比較を行い、将来的に新生児マススクリーニングの一環として、濾紙血からエピゲノムスクリーニングを行うことの妥当性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今回の研究では妊娠初期に患者をリクルートするが、臍帯血、臍帯、新生児濾紙血などの生体試料が得られるのは分娩後である。これらはすべてバイオバンクに適切に保存されているため、一定数の検体が収集されてからまとめて測定する予定であり、そのため経費の残額が生じた。DNA調整、および遺伝子多型解析、DNAメチル化解析はひとまとまりの数を揃えて行う。遺伝子多型解析においてはマイクロアレイの場合48サンプルごと、Taqmanの場合数百単位ごとであり、DNAメチル化解析においては、メチレーションアレイの場合16サンプルごと,EpiTYPERの場合数十から120程度までを1バッチとして解析する。これまでに収集された検体および収集予定の検体を合わせて、バッチごとの解析を行う。そのため、これまでに解析ができなかった検体については次年度に解析が必要となる。また本研究の全ゲノムレベルのDNAメチル化解析結果および既報のEpigenome-wide association study (EWAS)により同定されたCpG部位および関連SNPの検証のために、次年度に候補遺伝子アプローチによるDNAメチル化解析と遺伝子多型解析が必要となる。
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