研究実績の概要 |
I. ヒト胎盤血管周囲細胞初代培養系を用いた解析 ヒト胎盤由来の血管周囲細胞(human pericytes from placenta: hPC-PL,PromoCell)を専用培地(pericyte growth medium,PromoCell)で継代培養し、実験には4~8継代の細胞を用いた。HCMV AD169株をMOI 0.3~10で感染させ、感染後1~4日で解析を行った。蛍光免疫染色・フローサイトメトリー(FACS)解析では、ウイルス抗原を抗HCMV-IE1抗体(Chemicon)で、細胞マーカー(Desmin, α-SMA, CD146, NG2)を各抗体で染色すると、感染細胞において劇的なデスミン発現を認めた。さらに、HCMV感染細胞におけるDesmin, α-SMA, CD146, NG2遺伝子のmRNA発現を定量RT-PCR法で解析すると、Desmin遺伝子のみが対照細胞に比べて著明な発現上昇を認めた。
II. HCMV感染ヒト胎盤標本を用いた解析 HCMV感染胎盤パラフィンブロックから作製した連続切片においてウイルス抗原及び各種細胞マーカーの検出を試みた。その結果、HCMVは主に絨毛毛細血管内皮細胞と血管周囲細胞に感染し、栄養膜細胞には感染を殆ど認めなかった。また、感染により血管内皮細胞が消失した絨毛では、中間径フィラメント蛋白であるDesminを異常発現するHCMV感染血管周囲細胞を多数認め、この様な絨毛では、感染巣周囲にDesmin陽性間質細胞の増加を伴う線維化を生じていた。また、Desmin陽性感染細胞を認める胎盤ではウイルスDNA量も多く、胎児障害も重篤化していた。以上から、HCMV感染による血管リモデリング異常には血管内皮細胞障害と共に血管周囲細胞の間質細胞への形質転換が関与すると考えられた。この形質転換が血管統合性(vascular integrality)破綻による血管消失を生じ、同時に、間質線維化を誘導し(fibrogenesis)、ウイルス感染巣の拡大と胎児ウイルス血症の増悪に至ると推測された。
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