スフィンゴ脂質代謝は妊娠の維持、特に子宮の脱落膜化に重要な役割を果たしている。スフィンゴ脂質代謝の重要な酵素である、スフィンゴシンキナーゼの遺伝子改変マウスでは、妊娠早期にほぼ全ての胎児が子宮内で死亡する。これまでの研究で、スフィンゴシンキナーゼ遺伝子改変マウスの脱落膜組織において、CXCL1、CXCL2などの好中球遊走因子の発現が著明に増加しており、その部位に一致して好中球が異常に浸潤して脱落膜組織障害が起こり、ほぼ全ての胎児の早期死亡につながることを明らかにしてきた。今回、好中球の新たな殺菌作用として注目されている、neutrophil extracellular traps (NETs)に着目して研究を行った。NETsは、自己免疫疾患、血栓症など多様な疾患の病態に関与していることが近年、報告されてきている。スフィンゴシンキナーゼ遺伝子改変マウスの脱落膜組織では、好中球の顆粒成分、DNA、ヒストンなどが細胞外に共局在しており、大量のNETsが形成されていることが明らかになった。また、NETsの生成を阻害する化合物をマウスに投与すると、流産の発症を抑制することができた。さらに、自然流産した患者の脱落膜組織から脱落膜細胞を単離・培養し、スフィンゴシンキナーゼ活性を抑制した。スフィンゴシンキナーゼ活性が低下した脱落膜細胞の上清で、ヒトの好中球を刺激すると、大量のNETsの形成が認められた。以上より、マウスおよびヒトにおいて、スフィンゴ脂質代謝異常により誘導されるNETs形成が流産の発症に大きく関与している可能性が示された。これらの研究成果を学術論文にまとめ、発表することができた。
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