研究課題/領域番号 |
15K09715
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
太田 健一 香川大学, 医学部, 助教 (50403720)
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研究分担者 |
鈴木 辰吾 香川大学, 医学部, 助教 (50451430)
三木 崇範 香川大学, 医学部, 教授 (30274294)
割田 克彦 鳥取大学, 農学部, 准教授 (40452669)
日下 隆 香川大学, 医学部, 教授 (50274288)
金西 賢治 香川大学, 医学部附属病院, 准教授 (10263906)
久保 裕之 香川大学, 医学部, 協力研究員 (30564116)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 母子分離 / 扁桃体 / 興奮/抑制バランス / 社会行動 / 攻撃行動 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、脳発達期における母子間接触が神経回路網形成に与える影響を検討するため、母子分離モデルを用いて脳発達への影響を解析した。平成28年度は、脳発達期の母子分離によるストレスが成熟後の神経回路をどう変化させるのかについて検討した。 SDラットを用いて生後2-20日の間、仔を母獣から個別に分離(3時間×2回/日)して母子分離モデルを作製した。生後21日に離乳し雄のみを9週齢まで通常飼育後、各脳領域にて様々な蛋白質発現の解析を行った。その結果、母子分離曝露された仔では海馬・内側前頭前皮質・扁桃体において興奮/抑制シナプスのバランスが崩れている事が見出された。扁桃体では特に他部位よりも明確に興奮/抑制バランスが崩壊(興奮性シナプスマーカーの増加及び抑制性シナプスマーカーの減少)していることが見出され、通常よりも興奮しやすい状態となっていることが示唆された。更に、この扁桃体との関係性が指摘されている社会行動について9週齢で行動解析(three-chamber sociability and social novelty test、resident-intruder paradigm test)を行った所、母子分離曝露された仔では社会行動が減少し攻撃行動が増加していた。更に行動試験中に過剰な興奮状態(行動量の増加や飛び跳ね行動の増加)にあることも示唆された。これらの事から、脳発達期の母子分離ストレスは扁桃体の回路網形成期における興奮性/抑制性シナプスの発達に影響を与え、それが成熟後の社会性低下や攻撃性増加の一端を担っている事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では前年度の結果から早産児相当の脳発達段階に母子分離期間を絞って、行動解析を行う予定であった。しかし母子分離期間を絞った場合は、前年度変化が見出された海馬と関連する学習行動において有意な変化が見られなかった。これは早産児相当の脳発達段階のみが脳発達の臨界期ではなく、それに続く時期も重要である事を示すものである。そのため再度、母子分離期間を前年度と同様の期間に戻して、まず成熟後の回路網変化を明確にする事を優先させた。それによって今回の研究結果が得られている。 そのため当初の計画である早産児相当の脳発達段階のみを対象とした母子分離の影響の解明までは今年度は到達できていない。しかしながら注目していた海馬に加えて扁桃体においても回路網レベルで興奮/抑制バランスが崩壊しているという新たな知見が見出され、行動レベルまで解析できていることから十分な成果は得られているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度及び28年度の結果から、母子分離曝露された仔では海馬・扁桃体などを中心に神経回路網における興奮/抑制バランスが崩れている事が示唆された。このバランス崩壊を更に追求するために組織学的解析を行い、より詳細な解析を行う予定である。さらにこの結果を元にヒト早産児相当の脳発達時期における母子分離が海馬・扁桃体の回路網をどう狂わせたかについて平成27年度に焦点をあてたBDNFシグナルを中心に解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の解析では扁桃体の興奮/抑制マーカーに着目したため、その蛋白質発現解析をするための抗体購入を予算が無駄にならないようなるべく重要な因子に限定して購入、もしくは共同研究者から提供してもらって解析した。これらの結果を元に更にそのデータを支持する証拠となる他因子(接着因子など)や同じマーカーでも免疫組織学的解析に適した抗体の購入する予定だったがその計画が次年度以降になったために、その金額分の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額分は組織学的な解析に必要な抗体及び関連試薬を購入し、平成28年度の結果について組織レベルでの詳細解析を行う予定である。
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