研究課題/領域番号 |
15K09719
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
森本 昌史 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10285265)
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研究分担者 |
千代延 友裕 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40571659)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | iPS 細胞 / インターロイキン6 / 神経分化 / 神経凝集体 |
研究実績の概要 |
妊娠中の母体感染が、児の発達障害や統合失調症などのリスクとなることが臨床的に知られている。過去の動物実験からは、児の中枢神経への直接感染が原因ではなく、母体のサイトカインサージ、特にインターロイキン6 (IL-6)によるもの考えられているが、まだヒトでは明らかにされていない。今回我々は、ヒト由来 iPS 細胞を用いて、胎児期大脳皮質の神経分化をin vitroで再現し、IL-6暴露が胎児大脳皮質の分化に与える影響について調べることを目的とした。 ヒト胎児の大脳皮質は、まず在胎3-4週で神経幹細胞が増殖し、その後神経細胞に分化する。在胎18週以降になると、その後アストロサイトに分化するといった経緯をたどる。健常ヒトiPS細胞をSFEBq法によって神経系に誘導し、60日間浮遊培養し続けると、直径2mm程度の神経凝集体となる。我々はqPCR法や免疫染色法を行い、この神経凝集体が胎児脳の神経分化を再現していることを確認し、胎児大脳皮質モデルとして妥当であると考えた。このヒトiPS細胞から培養された神経凝集体を用いることで、従来は倫理的にも困難であった発生初期のヒト胎児の神経系細胞に関する研究がin vitroで行うことが可能となると考えられる。 この胎児大脳皮質モデルとしての神経凝集体にIL-6を投与することで、炎症が胎児の神経分化にどのような影響を与えるかを調べている。更にJak-STAT経路を中心にシグナル解析も行っている。今後は、この神経凝集体を用いて、IL-6による胎児脳への悪影響を阻害・抑制できるような物質を探索することができれば、臨床的にも非常に有益であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、母体のストレスが胎児の神経系に対して様々な悪影響を与えることが知られており、その主たる内因物質であるグルココルチコイドが神経分化に与える影響を由来 iPS 細胞を用いて調べたが、計画した実験条件、培養基間では有意な結果が得られなかったため、よりドラステックな影響が起こると考えられる母体感染の条件化での研究に計画を変更した。 ヒトiPS細胞を神経系細胞に誘導し、できた神経凝集体を浮遊培養し続けた。day 51にIL-6 (100ng/ml) を24時間投与した後に、day60に神経幹細胞 (PAX6)、神経細胞 (CTIP2)、アストロサイト (GFAP) のそれぞれのマーカーについて免疫染色を行った。IL-6未投与群と比較したところ、IL-6投与群では、神経幹細胞とアストロサイトが増加し、神経細胞が減少していた。IL-6はJak-STAT経路を介して細胞の増殖や分化に働きかけることが一般的に知られている。Western blot法を用いて、IL-6投与群でSTAT3のリン酸化が増加していることを確認した。現在は、IL-6にStattic (STAT3 阻害剤)を同時投与することで、IL-6がこのJak-STAT経路を介して神経分化への影響を及ぼしているかどうかを明らかにすることを試みている。
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今後の研究の推進方策 |
母体のストレスとしてより予備実験でドラステックな影響が考えられたIL-6投与に変更したが、計画変更後の実験計画は順調に進めている。今までの結果から、IL-6暴露はJak-STAT経路を介して胎児脳の神経分化に悪影響を与える (アストロサイトと神経幹細胞の増加、神経細胞の減少)ことが予想された。今後は、このIL-6暴露による影響を抑制する物質を探索していく予定である。候補としては、Jak-STAT経路を抑制し、且つ母体が安全に摂取できる物質 (DHAやポリフェノールなど)を考えている。これらの物質をIL-6と同時に投与し、Western blot法や免疫染色法を行うことで、IL-6暴露による影響を阻害できるかどうか研究をすすめていく。
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