妊娠中の母体感染が、児の自閉スペクトラム症などの発達障害や統合失調症などのリスクとなることが臨床的に知られている。また、過去の動物実験からは、児の中枢神経への直接感染が原因ではなく、感染ストレスによる母体のサイトカインサージ、特にインターロイキン6 (IL-6)によるもの考えられているが、まだヒトでは明らかにされていない。今回我々は、ヒト由来 iPS 細胞を用いて、胎児期大脳皮質の神経分化をin vitroで再現し、IL-6暴露が胎児大脳皮質の分化に与える影響について調べることを目的とした。 ヒト胎児の大脳皮質は、まず在胎3-4週で神経幹細胞が増殖し、その後神経細胞に分化する。在胎18週以降になると、その後アストロサイトに分化するといった経緯をたどる。 健常人由来iPS細胞をSFEBq法によって神経系外胚葉に分化誘導し、浮遊培養をし続け神経凝集体を得た。神経系細胞マーカーの推移から、この神経凝集体が大脳皮質の発生を模倣することを確認した。この胎児脳モデルにIL-6を24時間暴露したところ、リン酸化STAT3が増加し、10日後に対象と比較してアストロサイトが増加し、神経細胞が減少した。さらに、この神経分化障害を軽減する物質の候補としてJAK/STAT経路抑制効果が期待されるルテオリンの効果を検討した。ルテオリンの同時添加は濃度依存的にSTAT3のリン酸化を阻害し、IL-6による神経分化障害を抑制した。 本研究で用いた神経分化系は、胎内環境による胎児脳障害の病態解析・治療探索に有用と考えられた。ルテオリンは種々の野菜に含まれるポリフェノールである。本研究から、母体のルテオリン摂取により、母体炎症による胎児脳障害を軽減できる可能性があることが示唆された。
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