研究課題/領域番号 |
15K09725
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
有光 威志 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (60383840)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 脳・神経 / 近赤外分光法 / 小児医学 / 新生児医学 / 脳神経疾患 |
研究実績の概要 |
これまでに、母親声に対する正期産児の脳領域の機能的結合について研究を進めてきた。今年度は、早産児における母親声に対する脳領域の機能的結合について、近赤外分光法を用いて検討した。当院で出生した出生週数37週未満の早産児を対象とした。刺激として、児の母親による朗読音声(母親声)と未知の母親による朗読音声(非母親声)を提示した。光トポグラフィ装置ETG-4000を用いて、大脳皮質の左右側頭部12CHと前頭部22CHで酸化ヘモグロビン濃度(oxy-Hb)変化を計測し、有意な脳反応を示す脳領域を調べた。さらに、正期産児で機能的結合が認められた背側前頭前野と左右側頭部について、位相同期性を用いて機能的結合を検討した。対象となった早産児は21名、平均在胎週数33週6日、平均出生体重1866g、平均検査時日齢11.4日であった。正期産児では、母親声に対して背側前頭前野と左右側頭部におけるoxy-Hbが有意に低下したが、早産児では母親声に対して有意にoxy-Hbが変化するCHは認められなかった。さらに、正期産児では、母親声に対して背側前頭前野と左右側頭部で他の部位との機能的結合が強いが、早産児では、母親声に対して背側前頭前野と左右側頭部で他の部位との機能的結合は認められなかった。早産児では正期産児と異なり母親声に対して特定の機能的結合が認められないことから、母親声の認知処理に特化した特定の脳機能ネットワークが未発達であることが示唆された。本研究が発展することで、早産児の脳室周囲白質軟化症における認知・発達メカニズムを明らかにできる可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新生児の母親声と非母親声に対する特定の脳領域の脳反応については、正期産児と早産児について解析が順調に進んでいる。さらに、脳領域の機能的結合についての解析もおおむね順調に進展しており、論文を投稿中である。また、新生児の母親声と非母親声に対する脳反応と呼吸の関わり合いについての研究も進められている。そして、視線計測についても解析が進んでいる。正期産児、早産児共に、解析がおおむね順調に進んでおり、来年度さらに研究を発展させることが出来る。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は順調に進展しており、現在の研究を継続していくことが、成果の発展へと結びつく。今後の研究計画としては、大きく3つの目標があり、1)平成27年度で得られた、近赤外分光法を用いた母親声と非母親声に対する脳反応と視線計測の結果を比較するための早産児と脳室周囲白質軟化症におけるデータ解析の継続、2)平成27年度でデータが得られた、母親声と非母親声に対する脳反応と呼吸の解析を進めること、3)脳室周囲白質軟化症モデルの作成と解析である。平成27年度で正期産児と早産児における母親声と非母親声に対する脳反応と呼吸の解析が進んだため、論文発表をする。さらに脳反応と視線計測の関係について解析を進める。また引き続き脳室周囲白質軟化症の脳反応と視線計測の解析も続けていく。早産児について、母親声と非母親声についての解析を進め、それぞれの脳反応と視線計測について発達を調べる。そして、脳室周囲白質軟化症の脳反応と視線計測と比較することで、脳機能障害のメカニズムを探る。近赤外分光法と視線計測で得られた知見を、細胞や組織レベルで評価するため、脳室周囲白質軟化症モデルの作成を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究を確実に遂行するためには、当初は人件費の支出が必要と考えられた。しかし、現在の環境を最大限に生かすことで、研究遂行がおおむね順調に進んだため、不必要な人件費の支出は中止した。また、予定していた学会へ都合により参加できなかった。そして、効率的な物品調達を行った。そのため、次年度使用額が発生した。
|
次年度使用額の使用計画 |
来年度は、研究をさらに発展させるため、人件費の支出が必要となってくる。また物品費などが当初の計画より増加する。次年度使用額は、近赤外線分光法実験関連消耗品、ソフトウェア、試薬等を購入するために用いる。
|