研究課題/領域番号 |
15K09726
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
飛彈 麻里子 慶應義塾大学, 医学部, 共同研究員 (20276306)
|
研究分担者 |
粟津 緑 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (20129315)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 早産動物モデル / 腎低形成 / 糸球体数減少 / HIF |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、早産児におけるネフロン数の減少の発生機序の解明である。 慢性腎臓病発症の根底をなすネフロン数減少は子宮内発育遅延に加え早産によっても生じる。ヒトの剖検所見により早産児では 1)ネフロン形成が早期に終止し、2)生後形成された糸球体には血管の侵入がみられないことが知られている。さらに 3)生後の呼吸障害、腎毒性物質、低栄養、急性腎障害などがネフロン形成障害を増悪すると考えられる。本研究ではこれらの原因が子宮外相対的高酸素による hypoxia inducible factor (HIF)の発現・活性低下であるという仮説を検証する。HIF はネフロン前駆細胞の維持、血管新生、および腎障害因子による酸化ストレスの抑制に必要であると推測する。最終的には HIF の分解酵素 prolyl hydroxylase (PHD)の阻害薬を用い、早産によるネフロン数減少の治療をマウス、ラット早産モデルおよび器官培養系を用い試みることを目標としている。 平成27年度は、HIFがネフロン前駆細胞と相関して発現することの確認、低酸素状態でHIFの発現を刺激することでネフロン前駆細馬に起こる変化の評価を計画した。さらに、早産モデルマウスの作成、腎形態の経時的観察(nephrogenic zone の厚さ、糸球体原基のステージ毎の比率、形成された糸球体の形態)を予定した。また腎溶解液のウェスタンブロットにより腎ネフロン前駆細胞のマーカーCited 1の発現を正期産マウスと比較することを予定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
早産児のネフロン数が少ない原因として酸素濃度が低い子宮内から予定より早く相対的に高酸素の子宮外環境への曝露が考えられる。これを支持するデータとして低酸素環境で発現するHipoxia-inducible Factor (HIF)の発現がネフロン前駆細胞と相関して血管の発達とともに減少することが示されている。ネフロン前駆細胞はマウスでは生後3日で消失するが、低酸素環境においてはその消失時期が延長される可能性がある。妊娠ICRマウスを低酸素チャンバー(酸素10%)に妊娠18日より収容し、出生した(妊娠19日)新生仔の腎臓を摘出、バッファーに融解、ウェスタンブロットによりネフロン前駆細胞のマーカーであるCited 1の発現を対照の新生仔と比較した。マウスは通常妊娠20日であり、また生後もネフロン形成が持続するため、妊娠19日の新生仔はヒトの早産児と同等と考えている。 まず低酸素環境では胎仔の死亡率が高く、経時的に腎臓を採取する予定であったが生後0.5日と2.5日のサンプルしか採取できなかった。また活動度は低く、全身状態が不良と考えられ、その影響が腎臓に及ぶ可能性も懸念された。Cited 1のウェスタンブロットによる検討では日齢の一致した対照との差は認められなかった。また日齢3日以降のサンプルが得られなかったため低酸素によりネフロン前駆細胞消失が延長するか否かは不明である。 予定していた、後半の実験においては、まだ十分なデータが得られていていない。
|
今後の研究の推進方策 |
以上から、新生仔を低酸素環境におくことは全身状態への影響を考えると現実的でないと考えられた。今後はHIFを分解するprolyl hydroxylases(PHD) 阻害薬を新生仔に投与し、Cited 1発現、ネフロン形成終止時期への影響を検討する。それとともに早産モデルにおけるCited 1の発現、ネフロン形成終止時期を検討し、比較的高酸素環境への曝露がメフロン前駆細胞の消失を加速するのか否かを検討する。 In vivoでは、成果を得るのが困難であった場合には、器官培養での検討に切り替えることも考慮している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
計画していた実験で、想定通りに進捗せず、行えなかった実験があった。購入した消耗品の中に価格が想定していたより安価であったものがあった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の消耗品購入や、実験の一部を専門業者への委託する費用などにあてる予定である。
|