研究課題/領域番号 |
15K09729
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研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
宮内 潤 東京歯科大学, 歯学部, 教授 (20146707)
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研究分担者 |
川口 裕之 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, その他部局等, 准教授 (00313130)
宮下 俊之 北里大学, 医学部, 教授 (60174182)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 胎児性白血病 / 造血微小環境 / ダウン症候群 / 乳児白血病 / 自然治癒 |
研究実績の概要 |
胎児性白血病細胞と造血微小環境との関係について、以下の2通りの研究を開始した。 1.ダウン症候群における一過性白血病transient leukemia (TL)に関して: TLの白血病細胞と造血微小環境との関係を病理学的に検討するためには、組織切片におけるTL細胞を正確に同定する必要があるが、TL芽球は分化能を有するため、組織中の成熟した細胞がTL由来の腫瘍細胞か否かを決定することが難しい。とくにTLは新生児の疾患であり、新生児期の組織中に生理的に存在する髄外造血細胞との形態学的な鑑別が困難である。これを克服するためには、TL細胞のGATA1遺伝子変異を組織切片上でPCR法を用いて検出する方法(in situ PCR法)が最も確実な解決策である。本年度はこのin situ PCR法の確立を試みた。第一段階として、既知のGATA1遺伝子変異を有する症例の凍結保存TL細胞と対照細胞を用い、プライマーの作製に工夫を加えることで、変異特異的PCR法が可能であることを確認した。第二のステップとして、TL症例の組織切片および培養TL細胞のサイトスピン標本を用いたin situ PCR法を試行中である。内因性peroxidase活性の問題は回避できたが、非特異的な陽性反応への対処法を現在検討中である。 2. MLL遺伝子関連白血病に関して: TLとともに胎児性白血病の代表疾患であるMLL遺伝子関連白血病細胞と胎児造血微小環境構成細胞との相互作用を調べるため、この両者の共培養実験を予定しており、我が国の小児がん研究グループに白血病細胞保存材料の供与を依頼中である。また剖検症例の病理標本を用いた組織形態的解析のため、日本病理学会剖検輯報から解析に適した症例の検索を学会に依頼し、その結果をすでに得ている。これらの症例の剖検標本を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要の1に述べたin situ PCR法は、多くの用途に利用できる優れた解析方法であるが、その実験技術の確立や結果の評価方法は必ずしも容易なものではなく、多くの条件設定や対照実験を必要とする時間を要する方法である。さらに現在、この方法を用いた研究を行っている研究室は世界的にも少ないため、この解析方法を用いている技術者から直接指導をいただくことは困難であり、文献の記載に頼りながら独自に技術を確立しなくてはならない。解析技術に関する種々の問題の解決に多くの時間を要した。このため、2に関する研究は、時間的制約の問題が主たる理由にて、研究材料の収集の段階にとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
概要1に述べたin situ PCR法を平成28年度中には確立する予定である。この方法が利用可能となれば、胎児TL剖検症例を用いて、胎児期の造血臓器におけるTL細胞の存在を組織学的に確実に証明し、胎児臓器とTL細胞の増殖・分化の関連を明らかにする予定である。またin situ PCR法が技術的に十分な確立ができない場合には、その代替方法としてGATA1蛋白のN端およびC端に対する特異抗体を用いて、胎児組織中に浸潤するTL細胞が上記GATA1抗体のいずれに反応するかを解析する。TL細胞はGATA1タンパクのN端側に存在する活性化領域を欠損するため、C端側に対する抗体のみに反応するのに対し、正常細胞は両者に反応するため、この方法でもある程度の結果を出すことは可能と考えられる。概要2に記載した研究に関しては、MLL遺伝子関連白血病の細胞が供与されれば、胎児期の造血微小環境構成細胞との共培養実験を行い、この白血病細胞が胎児期の造血臓器である肝臓と骨髄のいずれに増殖・分化を依存するかを検討する予定である。また剖検症例の病理標本を用いて、この白血病細胞と造血臓器との関連を解析する。これらの結果から、胎児性白血病の代表的な疾患であるダウン症児のTLとMLL遺伝子関連乳児白血病の造血微小環境との関わりの異同を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
in situ PCR法の確立に時間を要したために、この技術を用いた疾患症例材料による解析実験が十分に進んでいないことから、解析に使用予定としていた試薬購入のための未使用額を次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
「研究実績の概要」の1に記載した研究に関して、次年度への繰越金と翌年度の助成金とを合わせて、in situ PCR法を用いた症例材料の解析に使用する。この方法にて十分な結果が得られない場合は、その代替方法として、組織切片上でGATA1遺伝子変異を有するTL細胞を検出するため、GATA1蛋白に対する特異抗体を購入して、免疫組織化学を主体とした病理学的解析を進める(「今後の研究の推進方策」の項参照)。また概要の2に記載した研究にも翌年度の助成金を使用する予定である。すなわちMLL遺伝子関連白血病の細胞と胎児期の造血微小環境構成細胞との共培養実験を行い、また剖検臓器における白血病細胞と造血臓器との関連を病理学的に解析する。
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