研究課題
本研究は,発達障害リスクを有する新生児集中治療病棟入院児において,近赤外光の散乱係数を用いて,児の脳微細構造の発育変化をリアルタイムで観察し,脳の微細損傷をベッドサイドで経時的に評価する手法を確立することを目的としている.研究初年度の2015年度には,新生児脳の散乱係数の経時変動およびその変動の原因因子を検証するため,ハイリスク児の散乱係数を生直後から連続的に計測し,臨床背景や経過と強い相関があることを確認した.2年目の2016年度にも症例のリクルートを継続し,これまでに50人のNICU入院児において,退院時に近赤外線と頭部MRIの同日記録が可能であり,これらのデータ解析が現在進行中である.新生児期早期に取得した散乱係数と出生時の臨床所見との関係に関する解析からは,散乱係数が在胎週数だけでなく,出生児の状態,特にApgarスコアに代表されるストレス深度や,血液ガスpHやBase-excess,呼吸管理の要否などに強く依存していることが明らかになった.脳内の構造複雑化や病的な単純化を反映して近赤外光の散乱が増減するとする研究者らの仮説を裏付ける結果であり,今後の臨床応用が期待される.これらの結果は,Scientific Reports誌に掲載され,並行してまとめられた,本研究課題と直接関連する5編の研究成果も,順次国際査読誌に掲載することができた.最終年度には,研究代表者の施設交代による測定系の整備確認及び倫理委員会の再審査が必要になるが,前年度までに確立された測定系を用いて,研究期間内に目標とする成果が得られるよう,周到に環境整備を行う予定である.
1: 当初の計画以上に進展している
初年度同様に,予定を上回る症例をリクルートすることができ,全体でプールされた症例は80症例に到達した.この内,退院前(予定日周辺)に拡散強調画像含む頭部MRIが撮影できた症例も50症例を超えている.生直後の近赤外光散乱係数と臨床所見との比較検討成果については,在胎週数だけでなく,Apgarスコア・血液ガス測定値・呼吸障害の有無・緊急帝王切開が散乱を強く規定することを示唆した論文作成を終え,既にScientific Reports誌に掲載された(Kurata et al. 2016).散乱係数の経時変化と臨床所見との比較検討も終了しており,国際誌に投稿準備中である.これらの研究と並行して,本研究で使用される近赤外線およびMRI定量値に影響を与える因子について,周生期ストレスの研究(Kinoshita et al. Sci Rep. 2016),MRI異方性拡散強調画像情報を用いた研究(Yamada et al. Sci Rep. 2016),周生期の環境が児の生体リズムに与える影響を検討した研究(Iwata S et al. Sci Rep. 2017)の解析を進め,英文査読誌に掲載することができた.
散乱係数の規定因子を同定し,臨床予測に使用するためには,更に多数の固定因子・ランダム因子の加味が必要となるため,予定されたよりも極力多くの症例をリクルートし,データベースから得られる情報をより精度の高いものにアップグレードして行きたい.このため,予定症例数に到達した後も,ハイリスク新生児から健常出生児まで,幅広く症例エントリーを継続する予定である.また,MRIとの同日記録症例が60症例に到達した段階で,引き続き,近赤外線散乱係数と,頭部MRI定性スコア(T1・T2強調画像において確立された判読スコアWoodward 2006 NEJM; Iwata 2012 Pediatricsに沿って評価)および定量値(拡散強調画像上の水の拡散係数・異方性拡散係数および脳内部位別容量測定値は,Ball 2013 Neuroimageに報告され,頻用されているtract-based spatial statisticsにより脳内18か所の定量値を算出,微細構造の指標とする)との比較を行う.初年度エントリーした児から順次修正18か月における面接式心理発達評価を行い,各脳機能を最もよく予測する定量値についての検討を行う.発達評価に関しては,すでに外来体制が整備されており,実施に際しての障害はないものと考えられる.また,退院時の脳機能,特に機能的結合を評価するツールとして,今後新規にエントリーする症例に関しては,長時間脳波評価を同時に行う.
本研究に専用で使用可能な近赤外線スペクトロスコピー光ファイバープローブおよび高周波数超音波プローブを購入予定であったが,共同研究者が購入した同等機種が利用可能であったため,購入する必要がなくなった.
最終年度も上記備品の購入は必要ないが,追加で行う脳機能評価のために,共同研究者との資金合算によって,ビデオ脳波計をベースにしたポリグラフシステムを購入する必要がある.また,初年度に購入予定であったが,代用機器を継続使用していた高機能ワークステーションに関して,システムの老朽化のため,更新が必要である.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 4件)
Sci Rep.
巻: Jan 4;7:39508. ページ: Online
10.1038/srep39508.
巻: Mar 17;7:44749. ページ: Online
10.1038/srep44749.
巻: Oct 18;6:35553. ページ: Online
10.1038/srep35553.
巻: Sep 23;6:33995. ページ: Online
10.1038/srep33995.
巻: Aug 11;6:31354. ページ: Online
10.1038/srep31354.
巻: Jun 15;6:27893. ページ: Online
10.1038/srep27893.