研究課題/領域番号 |
15K09745
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
中井 浩三 香川大学, 医学部附属病院, 講師 (40363204)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | アトピー性皮膚炎 / 自然免疫 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
自然免疫の役割を担う主要な細胞はマクロファージであり,活性化されたマクロファージにおける誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現と一酸化窒素を初めとする種々のフリーラジカルの産生は自然免疫の指標となる。リポポリサッカライド(LPS)で自然免疫を誘発したマウス皮膚においてもマクロファージ由来のiNOS発現とフリーラジカルの産生が確認されている。しかしながら,獲得免疫の異常により過剰に産生されたサイトカインの中にはIL-4などのマクロファージの機能と自然免疫を変化させるものがある。アトピー性皮膚炎(AD)の皮膚では獲得免疫の異常によって過剰に産生されたサイトカインなどがマクロファージの機能に影響しているため,自然免疫が低下していると推察される。 ヒトとADモデルマウス(flaky tailマウス)の皮膚病変部にはiNOSを発現するマクロファージが多数認められるので,ADでは自然免疫が恒常的に亢進しているように思える。しかし,実際にはflaky tailマウスの皮膚ではiNOS由来のフリーラジカル産生はむしろ減少していた。また,LPSでflaky tailマウスの皮膚の自然免疫を誘発しようとしてもiNOSの発現は変化せず,フリーラジカル産生も増加しなかった。これらの結果はflaky tailマウス皮膚におけるマクロファージの自然免疫不応答を意味している。自然免疫不応答なマクロファージはIL-17A中和抗体の全身投与によりiNOSの発現は変化しないものの,CD206の発現が抑制されてM1タイプのマクロファージにシフトし,自然免疫が回復した。しかしながら,ADにおけるIL-17Aの役割はヒトとマウスとで違うため,ヒトADの自然免疫低下の治療応用には数々の問題が残されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画どおりに実験を進めてきたからと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
ADの病因のひとつとしてフィラグリン発現低下によるバリア機能異常がある。フィラグリン発現が低下したflaky tailマウスでは表皮増殖因子受容体,カドヘリン,オクルージンといった表皮細胞間の主要な接着因子の発現も低下している。そのため,ランゲルハンス細胞が表皮細胞間に突起を伸ばしやすく,抗原の捕獲とその後のアレルギー反応が容易に誘発される。同様にフィラグリン発現低下によるバリア機能異常はマクロファージのヘテロな活性化と自然免疫低下も引き起こしていると考えられる。よって,保湿剤や保護剤により皮膚のバリア機能を強化することでマクロファージの表現型と自然免疫を正常化することが可能と推察される。 マクロファージによる一酸化窒素を初めとする種々のフリーラジカルの産生は表皮角化細胞などの他の細胞の100倍以上であることから,マクロファージが皮膚の主要な自然免疫担当細胞であると言える。これまでヒトAD皮膚とADモデルマウス皮膚でのヘテロなマクロファージの存在が確認された。また,ADモデルマウス皮膚の自然免疫不応答について確認され,IL-17A中和抗体の投与によりADモデルマウス皮膚のマクロファージ表現型がM1にシフトし,自然免疫が回復することが分かった。しかしながら,ADにおける皮膚マクロファージの役割についてはまだ不明な点が多く,自然免疫低下のメカニズムの解明と治療のためにも,更なる研究が望まれる。
|