尋常性天疱瘡は、カドヘリン型細胞接着分子であるデスモグレイン3(Dsg3)やDsg1に対する自己抗体によって粘膜や皮膚に水疱を生じる自己免疫性疾患であり、自己抗体によって誘発される細胞内シグナルが水疱形成すなわち細胞接着障害に関与していることを示唆する報告が近年相次いでいる。本研究代表者らのこれまでの研究で、尋常性天疱瘡抗体が細胞膜の脂質ラフト依存性にDsg3分子のエンドサイトーシスを引き起こすこと、またデスモゾーム自体が脂質ラフトと関連した構造物であることが示された。そこで本研究では、尋常性天疱瘡の病態における脂質ラフトの役割を明らかにすることを目的として、尋常性天疱瘡抗体によってDsg3分子がクロスリンクされることで、Dsg3および他のデスモゾーム関連蛋白の脂質ラフトへの分布に変化がみられるかどうかを形態学的ならびに生化学的に解析することを試みた。さらに、様々な細胞内シグナルのプラットフォームと考えられている脂質ラフトに注目して、Dsg3への尋常性天疱瘡抗体の結合による細胞内シグナル発生と脂質ラフトとの関連性を明らかにし、尋常性天疱瘡の病態に関わるシグナル分子を同定することも本研究の目的とした。Dsg3以外のデスモゾーム関連蛋白と脂質ラフトとの関連性や、デスモゾーム関連蛋白や細胞内シグナル分子と脂質ラフトとの形態学的な共局在を明確に示すデータを得るには至っていないものの、Dsg3分子のクラスター形成による脂質ラフトサイズの増大がシグナリングプラットフォームとして機能するために重要であることが示唆されることから、条件設定のさらなる検討が必要と思われる。また、尋常性天疱瘡で注目されているp38MAPKの上流にある脂質ラフト関連シグナル分子の同定についても今後の検討課題として残る。
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