研究課題/領域番号 |
15K09750
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
鈴木 良弘 日本大学, 医学部, 研究員 (80206549)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | TRAIL / 抗がん作用 / ミトコンドリア / ミトコンドリアダイナミクス / カルシウム / アポトーシス |
研究実績の概要 |
TRAILのカルシウムダイナミクスに対する作用を検討した結果、細胞質のカルシウム濃度(Ca2+cyt)が速やかに増加するのに対して、ミトコンドリア内カルシウム濃度(Ca2+mit)は細胞死誘発濃度でもわずかな増加しか見られなかった。この結果は、アポトーシス誘発の引き金の一つと考えられているCa2+mitのオーバーロードを抑制する何らかの仕組みがメラノーマ細胞で働くことを示唆した。そこで、ミトコンドリアからカルシウムを排出する経路の一つであるNa+/Ca2+交換因子(NCXmit)を特異的阻害剤CGP-37157で抑制したところ、Ca2+mitが顕著に増加し、TRAILによるアポトーシス誘発に対して感作作用が認められた。またCGP-37157はミトコンドリアの断片化を誘発して、TRAILによるミトコンドリアダイナミクスの崩壊を著しく増大させた。すなわち、TRAIL単独では、ミトコンドリアは短縮化して核の辺縁部に存在するのに対して、CGP-37157存在下では、断片化して凝集体を形成し、傷害された核に移行した。酸化的リン酸化阻害剤作用を持つ複合体III阻害剤アンチマイシンAとアンカップリング剤FCCPもCa2+mit増加、ミトコンドリアの断片化、ミトコンドリアダイナミクスの崩壊ならびにミトコンドリアの核移行を誘導して、TRAILによるアポトーシス誘発を増強した。これに対して、カルシウムキレーターEGTA, BAPTAならびにミトコンドリアカルシウムユニポーター特異的阻害剤ルテニウム360はCa2+cyt/ Ca2+mitを減少させミトコンドリアの分裂を阻害した。以上の結果は、Ca2+mitの増加がミトコンドリアの断片化を誘発し、これがミトコンドリアダイナミクスの崩壊とアポトーシス誘発の引き金になることを強く示唆した(投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度以降の目標1)~3)のうち1)「ミトコンドリアの形態変化に関与するROS代謝ならびに下流シグナルのがん細胞と正常細胞の相違の検討」に関して、ROS下流に位置するCa2+mitの制御に関して、メラノーマではそのオーバーロードならびにアポトーシス誘発を防ぐための仕組みとしてNCXmitを介するミトコンドリアからのカルシウム流出が促進されていることを明らかにした。さらに、Ca2+mitは、ミトコンドリアの断片化を引き起こしてミトコンドリアダイナミクスの崩壊とアポトーシスを誘発することを見出した。これらの成果は、2) ミトコンドリアの形態への作用を指標とするTRAIL増感剤のスクリーニング」に関する成果につながった。すなわち、CGP-37157, アンチマイシンAならびにFCCPがCa2+mitおよびミトコンドリアの形態を標的とする類似のメカニズムを介して、増感剤として機能することを見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
アンチマイシンAならびにFCCP によるCa2+mitの増加は、細胞外からのカルシウム流入に依らないことから、細胞内カルシウムチャネル、ポンプあるいはカルシウム輸送体の寄与が考えられる。NCXmitは通常ミトコンドリアからのカルシウム流出に働くが、特殊な条件では逆反応を起こしてミトコンドリアへカルシウムを流入させる。この逆反応はNa+の流入による細胞膜の脱分極ならびに細胞死との関連が考えられている。FCCPがメラノーマ細胞で細胞膜の脱分極を強く誘発することを観察している (Suzuki-Karasaki et al., Int J Oncol 44, 616-628, 2014)ことを考え合わせると、FCCPによるCa2+mit増加は、Na+の流入と細胞膜の脱分極によって惹起されたNCXmitの逆反応で生じているというモデルが考えられるので、これを検証する。
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