研究実績の概要 |
本研究の目的は、「ROSを介するミトコンドリア形態変化がTRAILによるアポト-シス誘導に関与し、この変化に対してがん細胞が正常細胞よりも感受性であることがTRAILの腫瘍選択性の要因である」との仮説を立証することであった。本研究の結果、次のような知見を得た。(1)TRAILによるミトコンドリア分裂は細胞死の誘発には不十分で、ミトコンドリアの断片化と凝集が必要である。(2) TRAILによるミトコンドリア分裂はダイナミン関連タンパク質1(Drp1)の616番目ならびに 637番目セリン残基のリン酸化を介して制御されるが、細胞死につながる断片化と凝集はDrp1非依存性である。(3) TRAIL投与は速やか(5分以内)かつ一過性に細胞内の過酸化水素(H2O2)産生を惹起し、続いてスーパーオキシドが産生する。(4)TRAILならびに細胞外から添加された過酸化水素はミトコンドリア内にスーパーオキシドを産生させ酸化ストレスを惹起する。種々のミトコンドリア電子伝達系阻害剤(ロテノン、アンチマイシンA, FCCP)も同様の作用を示し、その主たる産生源は電子伝達系であると考えられた。(5) TRAILならびにH2O2によるスーパーオキシド産生はがん細胞(悪性メラノ-マ、骨肉腫、肺がん細胞)の方が正常細胞(メラノサイト、線維芽細胞)よりも有意に高かった。(6)H2O2もTRAILと同様のDrp1依存性ミトコンドリア分裂を惹起し、その感受性はがん細胞の方が正常細胞よりも強く、がん細胞ではミトコンドリアの断片化と凝集が見られるが、正常細胞では軽度なミトコンドリア分裂のみが見られる。以上の知見から当初の仮説は十分に立証されたものと考えられ、本研究の目的は達成された。本研究の成果は、ミトコンドリア形態変化を標的としたアポト-シス誘導法とそれに基づく新規治療法の開発につながることが期待される。
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