研究課題/領域番号 |
15K09753
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤田 靖幸 北海道大学, 大学病院, 講師 (80374437)
|
研究分担者 |
清水 宏 北海道大学, 医学研究科, 教授 (00146672)
乃村 俊史 北海道大学, 大学病院, 講師 (50399911)
夏賀 健 北海道大学, 大学病院, 講師 (70645457)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 表皮水疱症 |
研究実績の概要 |
表皮水疱症(EB)は、表皮-真皮境界部を構成する蛋白の先天的欠損や構造異常により皮膚の脆弱性を生じ、容易に水疱や潰瘍を形成する遺伝性皮膚疾患である。表皮水疱症に対する根本的治療のアプローチとして、最近は間葉系幹細胞(MSC)を応用した再生医療が注目されている。しかしながらEBは先天性疾患であるため、根本的治療を実現可能なMSCは他人由来になることから、数ヶ月程度で体内から排除されるという問題がある。 そこで、EB患者において後天的に一部の皮膚で遺伝子異常が修復される現象(復帰変異モザイク)に注目した。復帰変異モザイクが示唆される部位から正常蛋白を産生する角化細胞を採取し、iPS細胞を作成した上でMSCへ分化・培養させ、病変部皮膚へ投与する方法を発想するに至った。 平成28年度では、引き続き樹立されたEB患者由来iPS細胞から、復帰変異モザイクを生じたクローンの選別を試みたが、残念ながら復帰変異モザイクを生じたiPS細胞クローンは得られなかった。そこで、健常人および復帰変異モザイクを生じていないEB患者から樹立したiPS細胞を用いて、MSCへの分化誘導を試みた。AAB法を用いて分化誘導を行い、MACSでCD105陽性細胞を分離培養したところ、プラスティックディッシュに付着しながら増殖する紡錘形細胞を得ることができた。この細胞は間葉系分化をin vitroで示し、CD73+CD90+Lineage-の表面マーカーを有しており、MSCとして妥当な細胞であることが確認された。さらに、各分化段階の細胞からmRNAを抽出し、各細胞に特異性の高い遺伝子発現を確認したところ、矛盾しない結果が得られた。マイクロアレイ解析により骨髄由来MSCと同様の遺伝子プロファイルを有していること、iPS細胞から誘導したMSCは骨髄由来MSCと比較してVII型コラーゲン遺伝子を発現しやすい可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に樹立されたEB患者由来iPS細胞から、残念ながら復帰変異モザイクを生じたクローンを選別されなかった。これは、日本で最も患者数が多い重症型EBである、劣性栄養障害型EBの患者において、復帰変異モザイクを起こした細胞の絶対数が多くない可能性が示唆される。 その一方で、角化細胞由来iPS細胞からのMSCの誘導実験については、きわめて順調に推移している。免疫染色・間葉系細胞分化実験・フローサイトメトリー・RT-PCRおよびマイクロアレイ解析において、MSCに矛盾しない結果が得られている。また、骨髄由来MSCと比較して、皮膚基底膜を構成するVII型コラーゲン遺伝子の発現が強くなる可能性が示唆されており、これまでに報告されていない知見が得られる可能性がある。 現時点で誘導細胞を創傷作成免疫不全マウスへ投与するin vivo実験も順調に行われており、研究課題全体としてはおおむね順調に推移していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
文献上は、接合部型EB患者において、臨床的に復帰変異モザイクを示唆する部位の角化細胞の7-80%が実際に遺伝子の正常化を伴うと報告されている。本邦で接合部型EBはきわめてまれであるが、専門外来などを通じた症例のリクルートをはかる。 MSCのプロファイル解析についてはおおむね順調に推移している。平成29年度以降も引き続きiPS細胞の樹立および復帰変異モザイクの評価を進め、遺伝子の正常化されたクローンを得ることができれば、MSCへの誘導実験および解析を実施する。 現時点で樹立することができている健常人角化細胞由来の細胞について、in vivoでの検討および解析を引き続き実施する。具体的には、ヒト細胞が生着し異種移植実験が可能な免疫不全scid マウスの背部に全層創傷を作成し、上記で作成されたMSC を局所注射、ないし経静脈投与する。創が上皮化した時点で皮膚組織を採取し、ヒトHLA-classI 陽性皮膚構成細胞の存在率を免疫染色やフローサイトメトリー等で解析する。また、ヒト皮膚基底膜蛋白の発現について免疫染色・RT-PCR・Western blotting で確認する。 さらに今回、iPS細胞から誘導したMSCは骨髄由来MSCと比較してVII型コラーゲン遺伝子(COL7A1)を発現しやすい可能性が示唆されたことから、in vitroでの細胞レベルでの蛋白発現レベルの比較も実施する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
細胞の樹立までに思いの外時間が掛かり、マウスへの投与実験の開始時期が遅れたため、マウス購入費用および維持費用等が当初の予定より少なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
最終的には平成29年度までにマウス実験を完遂するため、全体としての使用計画に変更は無い。
|