研究実績の概要 |
私たちは、これまでに細胞極性制御因子であるaPKCλ(atypical protein kinase C lamda)を表皮細胞特異的に欠損させた変異マウスを解析し、aPKCλが毛包幹細胞の休眠状態を制御することによって、皮膚恒常性の維持に関わっていることを明らかにした。本研究では、この成果をさらに発展させ、表皮に2種類存在するaPKC分子種(aPKCζ, aPKCλ)が、毛包幹細胞の休眠制御、創傷治癒、創傷治癒後毛包新生にどのように関与するのかを明らかにするとともに、両分子種間の機能的差異を解析することを目的に研究を進めた。平成29年度は以下の研究成果を得た。 ①表皮特異的aPKCλ欠損マウスでは、創傷治癒過程がコントロールに比べ著しく遅延したのに対し、aPKCζ欠損マウスでは創傷治癒の遅延は見られなかった。②表皮特異的aPKCλ欠損マウスおける創傷治癒の遅延は、細胞増殖の異常ではなく、創傷部への表皮細胞の移動の異常であることがわかった。③創傷部への表皮細胞の移動の異常の原因は、表皮細胞が極性を失い、創傷部に向かって正しく移動できなくなるためであることがわかった。④表皮特異的aPKCλ欠損マウスでは創傷後毛包新生がコントロールに比べ亢進したのに対し、aPKCζ欠損マウスで創傷後毛包新生の亢進は見られなかったの。⑤表皮特異的aPKCλ欠損マウスにおける創傷後毛包新生はWnt経路の活性化を介することがわかった。以上より、2種類存在するaPKC分子種の機能は同等ではなく、創傷治癒、および創傷後毛包新生において主要な役割を担っているのはaPKCλであることがわかった。
|