表皮(後の皮膚)への分化を制御する分子として、これまでに、神経分化抑制因子BMP4が報告されている。しかしながら、報告の多くは両生類などを用いた研究であり、哺乳類の表皮分化の分子機構については不明の点が多かった。本研究課題ではES細胞を用い、哺乳類初期発生における表皮の分化機構を分子レベルで明らかすることを目的とし、研究を進めてきた。 マウスES細胞を分散後に、無血清培地中で浮遊培養すると細胞塊が形成されるが、このES細胞塊をBMP4存在下で浮遊培養するだけでは表皮への分化はほとんど見られない。しかしながら、形成した細胞塊を細胞外マトリックス成分の一つであるファイブロネクチン上で接着培養することで、高い効率で表皮幹細胞(CK15及びCK14陽性)へ分化することが本研究で明らかとなった。BMP4存在下で培養したES細胞の遺伝子発現を網羅的手法で解析したところ、メタロプロテアーゼADAMTS-2が同定された。興味深いことに、ADAMTS-2の発現開始時期は表皮幹細胞マーカー発現よりも先行していたことから、メタロプロテアーゼが表皮への運命決定において新規の機能をもつ可能性が示唆された。 最終年度は、マウスES細胞由来表皮前駆細胞でのADAMTS-2機能阻害実験を行い、表皮分化に与える影響について検証した。また、ヒト初期発生における表皮の分化機序を明らかにするため、マウスES細胞で確立した表皮への分化方法をヒトES細胞に応用する試みを行ったが、BMP4の添加時期はマウスES細胞とは一致しないことが示された。
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