研究課題/領域番号 |
15K09764
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
三井 広 山梨大学, 総合研究部, 講師 (60372504)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 皮膚有棘細胞癌 / 分子標的療法 |
研究実績の概要 |
皮膚有棘細胞癌は皮膚癌の中では2番目に頻度の高い癌である。他臓器への転移により致死性の可能性のある腫瘍である。代表研究者は米国留学中に、皮膚有棘細胞癌の微小環境における 癌の増殖、浸潤、転移に関わる分子機構の解明を行って来た。Laser capture microdissection (LCM)法により、ヒト腫瘍組織から腫瘍胞巣を選択的に採取し、total RNA を抽出し、遺伝子の網羅的発現解析を行った。この方法により得られた腫瘍組織と正常表皮の遺伝子profile を比較する事により作成された遺伝子発現リストは、皮膚では正常表皮に比べ腫瘍細胞に選択的であると考えられる。作製した癌組織特異的遺伝子リストには、サイトカイン、ケモカイン、細胞増殖因子、接着因子など癌の増殖、浸潤に関与する様々な分子が含まれている。例えば、KRT17は前癌病変である日光角化症での発現は低いが、有棘細胞癌病変で発現が増加する。これまでにKRT17は上皮系細胞および上皮系癌の増殖に関与することが報告されている。同様にKRT13の発現は有棘細胞癌の領域で増加するが、前癌病変である日光角化症では正常皮膚と有意差がない。一方、腫瘍の増大、浸潤におけるKRT13の役割はこれまでに明らかにされていない。今後、これら有棘細胞癌に特異的に発現する分子の機能を解析を進めることは、新規の治療法を確立する上で非常に有用であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初初年度計画としては、研究の対象分子を遺伝子リストから選定し、その発現のスクリーニングを患者組織、腫瘍細胞株を用いて完了させることを予定していた。しかし、現在の進捗状況は膨大な数の候補分子の作用について、文献的な検索に時間を要している状態である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は速やかに候補分子の絞り込みをまず行う。選定した分子のヒト有棘細胞癌組織および他の炎症性、腫瘍性皮膚疾患での発現のスクリーニングを免疫組織染色を用いて行う。免疫組織染色に用る検体は、山梨大学医学部附属病院で切除され、ホルマリン固定された状態で保存されている腫瘍組織を用いる。候補と考える分子に対する抗体はすでに購入済みであり、速やかに使用できる状況である。また、腫瘍細胞株および各種ヒト皮膚由来正常細胞からtotal RNA を抽出し、reverse transcribe polymerase chain reaction (RT-PCR)法にて、細胞でのmRNAの発現レベルを比較する。また、FACS 法を用いて、蛋白レベルでの発現も確認する。腫瘍細胞株としては従来より皮膚有棘細胞癌の実験で汎用されているA431腫瘍細胞および、日本人の皮膚有棘細胞患者から樹立された腫瘍細胞であるHSC-1、HSC-5細胞はすでに購入済みであり、速やかに実験に使用できる環境である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予定した実験が若干の遅れを生じ、細胞増殖のMTT法、トランスフェクション法などの培養細胞を用いる機能解析の実験を行えていなかった。そのため、それらの実験に必要な実験のキットや抗体などに未購入物品があり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
発現分子の有棘細胞癌細胞内での機能解析のために、今後は細胞増殖能をMethyl thiazolyl tetrazorium (MTT)試験を行う予定である。また、遊走能はwound healing assay を用い、腫瘍細胞の浸潤能は cell invasion assay にて異なる細胞外基質(例: 基底膜の主成分であるcollagen IV や真皮の主成分であるcollagen I など)への浸潤能を評価する。これらの次年度使用額は、今後継続して行う研究の中で、上述の培養細胞を用いる機能解析の実験に必要な実験のキットや抗体などに購入に当初目的通りに使用する予定である。
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