我々はLaser capture microdissection法により作成された、皮膚有棘細胞癌組織中の癌細胞に特異的な遺伝子発現リストより、転写因子E2F4が日光角化症、表皮内癌、浸潤癌のいずれにおいても正常表皮に比較して高発現していることを見出した。E2F転写因子は細胞内外からの刺激に対し、細胞の増殖、分化を決定づける重要な転写因子である。近年、癌細胞ではE2F4の癌遺伝子としての働きを支持する報告が、前立腺癌や乳がんの研究からなされている。我々はまず、様々な表皮増殖性疾患におけるE2F4の発現を、免疫染色法で確認した。有棘細胞癌では癌細胞の核を染色することが明らかであった。一方、表皮由来の皮膚悪性腫瘍である基底細胞癌ではその発現はほとんど認められなかった。また、良性の表皮増殖性疾患である脂漏性角化症と尋常性乾癬では、弱い発現を認めるのみであった。一方、母斑細胞性母斑においては腫瘍細胞に強く発現することを確認した。皮膚有棘細胞癌の腫瘍細胞株であるHSC-5やA431では、恒常的にE2F4が発現することをmRNA及び免疫細胞化学法を用いて確認した。その発現パターンは腫瘍細胞株により異なり、細胞増殖能の強いHSC-5細胞では核内に染色する。一方細胞増殖の比較的緩徐なA431細胞では細胞質に染色した。また、E2F4を核内に発現するHSC-5細胞は腫瘍細胞の形態に線維芽細胞用の変化が認められ、epithelial to mesenchymal transitionへの関与の可能性も考えられた。これらの結果は転写因子E2F4の発現の有棘細胞癌での特異性を示すものであり、その発生、増殖に何らかの役割を果たすことが推測される。現在は腫瘍細胞株を用いて、siRNA法によるE2F4分子の発現を抑制し、その機能解析を行っているところである。また、E2F阻害薬であるHLM006474のin vitroでの効果について検討する予定である。
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