研究課題/領域番号 |
15K09772
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
福島 聡 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (50398210)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 悪性黒色腫 / マクロファージ / 細胞移入療法 / 免疫療法 / インターフェロン / 腹膜播種 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
悪性黒色腫に対して、ヒトiPS細胞から誘導したマクロファージ(iPS-MP)の有効性や安全性を前臨床試験として示していくのが本研究計画の目的である。前年度までに、その有効性についてヒトメラノーマ細胞を免疫不全マウスに播種させて、IFN-α, IFN-β分子を遺伝子導入したヒトiPS-MPで治療するin vivo実験を概ね成功させていた。さらに平成27年度においては、in vitroでサイトカイン産生能、貪食能などを検討し、その抗腫瘍メカニズム解明を行った。その結果、IFN-α, IFN-β分子いずれを遺伝子導入したiPS-MPもマクロファージの活性、遊走を増強するサイトカイン(MCP-1、RANTES、IP-10、IL-6、IL-8)分泌能が、遺伝子導入をする前の細胞iPS-MPと比較し著明に亢進していることを見出した。また、抗腫瘍免疫に利するM1マクロファージのマーカーであるCD169の発現が上昇し、一方、免疫抑制に傾くM2マクロファージマーカーである、CD206の発現が低下することも発見した。すなわち、IFN-αやIFN-β分子を導入したiPS-MPが、導入する前のiPS-MPよりも、サイトカイン産生プロファイルが大きく変化しM1マクロファージというタイプになっていくことで強い抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。また腹膜播種したメラノーマ細胞は概ね大網に集積するが、投与したiPS-MPが実際にヒトメラノーマ細胞の周りに集積することも免疫組織学的検討で確認した。さらには、IFN-αやIFN-β分子を導入したiPS-MPを投与することによって、マウスの内在性のマクロファージが担がん状態でM2タイプが増加しているのを、正常化することも証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度までの研究成果について以下の論文として報告した(Cancer Immunol Res. 2015 Dec 29. Immunotherapy against Metastatic Melanoma with Human iPS Cell-Derived Myeloid Cell Lines Producing Type I Interferons. ) さらに平成27年度は、免疫不全マウスではなく、通常の免疫系をもつB6マウスで上述のような実験系を行うために、B6マウスのgenetic back groundを有するiPS細胞を入手し、IFN-β分子の導入を行った。この細胞を用いて、樹状細胞およびマクロファージに分化誘導し、細胞表面マーカーで確認した。まだ予備実験であるが、遺伝子導入していないiPS-MPを投与したマウス体内では、マウスメラノーマが播種シテ行くのに対し、IFN-βを導入したiPS-MPを投与したマウス体内メラノーマが減少することを、ルシフェラーゼで定量化するシステムにて確認した。 以上のように本計画はすでに一定の成果を挙げ、さらに先の計画へ進行中であり、順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後さらに多くのB6マウスを用いて上述した予備実験の再現性を確認する予定である。 また、さらに強力な抗腫瘍効果を期待して、自然免疫系を賦活する作用、メモリーT細胞の指示作用、樹状細胞やマクロファージの機能的成熟を促すとされるIL-15の遺伝子導入もすでに行っている。これまで何度もIL-15の発現ベクターを作成してもIL-15分泌が確認できなかったが、最近、IL-15の分泌には、IL-15Rαの発現が小胞体からゴルジ体への輸送に必須であることがわかった。よって、IL-15にリンカーでIL-15Rαを同時発現するベクターを用いて、iPS細胞に遺伝子導入を行ったところ、ついに培養上清中に著明なIL-15を確認することができた。今後、これらの細胞をもちいて、in vivoおよびin vitroの実験を行っていく予定である。 さらILl-18やIL-21の遺伝子導入も検討してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度には主にマウスの実験の物品費に、1,292,144円を使用した。1,300,000円を請求していたが、物品購入の端数7,856円が未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
7,856円は次年度の予算と合わせて、さらなる実験のために使用する計画である。
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