研究課題/領域番号 |
15K09783
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
谷口 智憲 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40424163)
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研究分担者 |
河上 裕 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (50161287)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 悪性黒色腫 / がん免疫療法 |
研究実績の概要 |
本研究では、悪性黒色腫において、がん組織の中でも、不均一(heterogeneity)に発現する細胞表面分子マーカーの中から、免疫抑制を誘導して免疫療法耐性となる細胞分画を定義できるマーカーの同定を試みている。昨年度までに、同定した表面抗原の候補に関して、その陽性分画と陰性分画を各々分離し、悪性黒色腫の腫瘍抗原であるMART-1に特異的なT細胞に対する感受性を、51Cr遊離アッセイを用いて評価したところ、抗原A, Bに関しては、その陰性分画は、陽性分画に比べて、MART-1特異的T細胞に対して耐性であること、抗原Cに関しては、その陽性分画は、陰性分画に比べて、MART-1特異的T細胞に対して耐性であることがわかり、前年度のIFN-γ放出試験の結果と一致した。さらに、免疫不全マウスに悪性黒色腫細胞株を移植し、MART-1特異的T細胞で治療するマウスモデルを確立し、治療群と対照群で表面抗原A,B,Cの発現を比較したところ、治療群の悪性黒色腫組織では、抗原A,Bは低発現で、抗原Cは高発現であった。この結果より、これまでのIFN-γ放出試験や51Cr遊離アッセイによって、in vitroでMART-1特異的T細胞に対して耐性であると評価された悪性黒色腫分画が、in vivoの治療モデルでも治療後により多く残存している事が分かった。以上より抗原A, B, Cの発現は、ヒト悪性黒色腫において、抗腫瘍免疫応答の誘導に関与している可能性、そのマーカーとなる可能性がin vitroおよびin vivoマウスモデルで示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの二年間で、悪性黒色腫において、免疫抑制能の高い細胞分画を定義できるマーカーとして、抗原A,B,Cを発見するに至った。その検証は、in vitro及びin vivoの実験で確かめることが出来た。次のステップの免疫抑制のメカニズム解析の為に、網羅的遺伝子発現解析を行う予定であるが、既に複数の細胞株において、抗原A,B,Cについてそれぞれ陽性分画、陰性分画に分離したサンプルを得ており、平成29年度には網羅的遺伝子発現解析がすぐに行える状況である。ヒト悪性黒色腫検体の収集も進み、一部は浸潤免疫細胞の評価が終了している。よって、抗原A,B,Cと臨床病理学的因子との相関の解析も平成29年度に行える予定である。現時点では当初の目的に向けて、研究は順調に進捗しており、ほぼ満足できる達成度であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに同定した抗原A,B,Cの3つのマーカーの組み合わせによって、より耐性の分画を定義できるかを検討する。また、T細胞への感受性の違い以外にも、樹状細胞(DC)に対する抑制能、免疫抑制性のM2マクロファージ、制御性T細胞の誘導能の違いなどを評価する。また、これらのマーカーの発現と、臨床病理学的因子との相関をヒト悪性黒色腫の臨床検体を用いて検討する。次にこれらのマーカーで定義されるがん細胞集団の性質を、DNAマイクロアレイなどの網羅的解析法を用いて明らかにする。この解析の結果、免疫抵抗性分画に対する治療標的が、同定出来たならば、それに対する分子標的薬、もしくはRNAiなどを用いて、免疫療法の効果を改善できるかをマウス治療モデルを用いて検討する。
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