研究課題/領域番号 |
15K09792
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
落合 豊子 日本大学, 医学部, 教授 (40133425)
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研究分担者 |
鈴木 良弘 日本大学, 医学部, 助教 (80206549)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 低温大気圧プラズマ / メラノーマ / TRAIL / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
プラズマ活性メデイウム(PAM)のTRAIL耐性メラノーマ細胞に対する抗腫瘍効果とメカニズム:PAM中でヒトメラノーマ細胞を培養して細胞増殖に及ぼす影響を調べた。PAM中でTRAIL耐性メラノーマ細胞を培養すると24時間後から細胞死が認められ、72時間後にはほとんどの細胞が死滅した。この作用はプラズマの照射時間に依存した。この作用は正常メラノサイトや線維芽細胞ではみられず腫瘍特異的であった。TRAILと同様にPAMはアポトーシスを惹起したが、PAMによる細胞死はカスパーゼ全般の阻害剤z-VAD-FMK並びにカスパーゼ3/7特異的阻害剤z-DEVD-FMKによって抑制されなかった。これらの結果からPAMは主にカスパーゼ非依存的なアポトーシスを誘発すると考えられた。
PAMによるミトコンドリア分裂の分子メカニズム:PAMは強いミトコンドリア(Mt)の分裂を惹起した。この反応は30分後から認められ、時間とともに顕著になった。高濃度PAM中ではMtは点状に分裂しさらに凝集した。Mt分裂を促進させるダイナミン関連タンパク質1(Drp1)の616番セリンのリン酸化は30分位から顕著に時間とともに増加したが、それを抑制する637番セリンのリン酸化は1時間後に最大となり、以後時間とともに減少し4時間後には未刺激レベルに戻った。このことは時間経過とともにMtの分裂が融合よりも優位となることを意味し実際の観察結果と一致している。またPAMは正常細胞ではMt形態にほとんど影響を与えず、Drp1のリン酸化も起こさなかった。さらにPAM中には過酸化物が産生され、過酸化水素投与により腫瘍特異的な細胞死、Mtの分裂と凝集、およびDrp1のリン酸化の変化が惹起された。以上からPAMによるMt分裂の分子メカニズムには過酸化水素産生とそれによるDrp1のリン酸化変化が関与することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の主要な目標はPAMによるミトコンドリアの分裂と細胞死の関連性の検討、並びにそれに関与する活性酸素(ROS)の同定であったが、ミトコンドリア分裂並びにそれを制御するDrp1のリン酸化がアポトーシスと同様に腫瘍特異的に惹起されること、およびそのメデイエーターが過酸化水素であることを明らかにすることができたので当初の目標はおおむね達成されたと考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
過酸化水素がどのようにしてDrp1のリン酸化を変化させるか、その分子メカニズムの詳細を明らかにする。特に過酸化水素はメラノーマ細胞内で速やかにミトコンドリアの電子伝達系(OXPHOS)を介したスーパーオキシド産生を惹起するのでスーパーオキシド並びにOXPHOSの関与を調べる。他方、過酸化水素は一酸化窒素(NO)合成酵素の活性化を促進し、NOを産生させることも報告されている。最終的にはスーパーオキシドとNOから最も活性の高いペルオキソ亜硫酸が生成し、これによるDrp1のS-ニトロソ化が誘発されてDrp1のリン酸化に影響することも考えられるのでこの可能性を検討する。またTRAILもミトコンドリアを分裂させるが、基本的には凝集は余り起こさない。しかしTRAIL増強剤の併用投与ではミトコンドリアの分裂と凝集が観察できる(Oncotarget2015業績参照)ので、PAMがTRAIL耐性メラノーマ細胞を死滅させるのは、この凝集の誘発によると推察される。そこでこの凝集の分子メカニズムを明らかにする。
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