研究課題/領域番号 |
15K09792
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
落合 豊子 日本大学, 医学部, 教授 (40133425)
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研究分担者 |
鈴木 良弘 日本大学, 医学部, 研究員 (80206549)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | AGP / 抗がん作用 / ミトコンドリア / ミトコンドリアダイナミクス / 活性酸素 / Drp-1 |
研究実績の概要 |
低温大気圧プラズマ(AGP)刺激培地(PAM)は、ミトコンドリアの分裂に必須なDrp-1, Ser616のリン酸化を腫瘍選択的に引き起こすことを見いだした。またPAM投与後のメラノーマおよび肺癌細胞のミトコンドリア内に活性酸素(ROS)の一種であるスーパーオキサイドの産生を認めた。また過酸化水素(H2O2)の添加により、Drp-1, Ser616のリン酸化、ミトコンドリア分裂ならびに細胞死が腫瘍選択的に誘発されることを見いだした。さらにPAMと同様に H2O2によるミトコンドリア分裂も抗酸化剤N-アセチルシスチン(NAC)で抑制された。加えてPAM刺激およびH2O2添加による細胞内ROS産生が、正常細胞に比較してがん細胞では有意に高いことを明らかにした。これらの結果から、(1)PAM刺激によってH2O2などを介して生じる酸化ストレスによりミトコンドリア分裂ならびに細胞死が誘発される。(2)がん細胞は正常細胞よりも酸化ストレスが起こりやすいために、このミトコンドリア分裂に起因する細胞死に脆弱であることが腫瘍選択性の要因となっている、と考えられた。しかしミトコンドリア分裂だけでは十分ながん細胞死は誘発されず、分裂ミトコンドリアの凝集が必要なこと、ならびにPAMでは高濃度ではミトコンドリアの分裂と凝集両方を、低濃度では分裂のみをそれぞれ誘発するが、これらの作用はすべてNACで強く抑制されたことからH2O2以外のROSまたは活性窒素がその凝集に関与していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度以降の目標1)~3)のうち、1)「ミトコンドリアの形態変化に関与するROS代謝ならびに下流シグナルのがん細胞と正常細胞の相違の検討」に関して、ROSがDrp-1リン酸化を抑制すること、ならびにがん細胞が正常細胞よりもPAM投与によるROS産生に対する感受性が高いことを明らかにできたことから、当初の目標はほぼ達成されたと考えられる。また 2)「ミトコンドリアの形態への作用を指標とするAGP増感剤のスクリーニング」に関して、ミトコンドリアスーパーオキシドの産生発見に基づき、酸化的リン酸化阻害剤の作用を調べたところ、複合体III阻害剤アンチマイシンAとアンカップリング剤FCCPがAGPによるミトコンドリアダイナミクスの崩壊を促進して、増感剤として機能することを見いだしている。
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今後の研究の推進方策 |
ROS産生を増加させる酸化的リン酸化阻害剤が低濃度PAMと同様にミトコンドリア分裂を誘発でき、ミトコンドリア内カルシウム濃度を上昇させることを新たに見いだした.Drp-1リン酸化はカルシウム依存性ホスファターゼであるカルシニューリンで抑制されることから、ROSがカルシウムシグナルを介してDrp-1リン酸化を抑制する可能性が考えられるので、この仮説を検証する。3)「AGP増感剤併用の抗腫瘍効果のin vivoでの検討」は酸化的リン酸化阻害剤が増感剤として働くことが明らかになったので、これを中心にして行う予定である。
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