研究課題/領域番号 |
15K09793
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
佐伯 秀久 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (80235093)
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研究分担者 |
玉利 真由美 国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, チームリーダー (00217184) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アトピー性皮膚炎 / 乾癬 / 遺伝要因 |
研究実績の概要 |
日本でも約7年前より重症・難治性の乾癬患者に対してTNF-alpha阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ)による治療が始まり、患者の皮疹とQOLは著明に改善した。しかし、TNF-alpha阻害薬に良く反応する患者(レスポンダー)群と、あまり反応しない患者(ノン・レスポンダー)群が存在するのも事実である。乾癬に対するTNF-alpha阻害薬の治療反応性に関与する遺伝子多型として、欧米ではFCGR2A/3A、TNFA, TNFR1A/1B、TRAILR1、TNFAIP3などが報告されているが、本邦ではまだあまり解析されていない。そこで、日本人の乾癬患者を対象に、欧米で報告された遺伝子多型に関して、レスポンダー群とノン・レスポンダー群で遺伝子頻度に差があるか調べることにした。まだ、44症例の中間解析結果であるが、上記の遺伝子多型の中に、ボーダーラインで有意差がみられるものが存在した。今後は症例数を増やして解析を続けていく予定である。 また、研究分担者の玉利真由美らは、血清総IgE値が1000 IU/mL以上の日本人のアトピー性皮膚炎患者37名からゲノムDNAを回収して、エクソーム解析を行った結果、アレル頻度が1%以下のレア・バリアントを7つ同定した。次に、467名の血清総IgE値が1000以上のアトピー性皮膚炎患者と、935名の健常人から回収されたゲノムDNAを用いて、7つのレア・バリアントに関するレプリケイション・スタディを行った。結果、CYP27A1 rs199691576 (A/G) で有意な相関を認めた。このレア・バリアントはビタミンDの代謝経路に関与する遺伝子であるが、以前にもアトピー性皮膚炎のゲノムワイドな相関解析で、ビタミンDに関する遺伝子との相関が報告されていた。今回の解析結果から、アトピー性皮膚炎の病態にビタミンDの代謝経路が関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、アトピー性皮膚炎と乾癬の遺伝要因を亜型や治療反応性で分類して詳細に解析することで、より深い病態の理解やより適切な治療手段の選択を可能にすることを目的とする。 研究代表者が今まで在籍した3施設(日本医科大学、東京慈恵会医科大学、東京大学)で共同して、アトピー性皮膚炎および乾癬患者から血液検体を収集する。採血時に併せて診療情報(臨床像の特徴、臨床検査値の特徴、亜型分類、各薬剤への治療反応性など)も収集する。集めた検体は理化学研究所に送付され、遺伝子解析を行う。既に、東京大学でアトピー性皮膚炎223検体、乾癬175検体、東京慈恵会医科大学でアトピー性皮膚炎90検体、乾癬108検体、日本医科大学でアトピー性皮膚炎54検体、乾癬47検体を収集済である。 今年度は新たに、東京慈恵会医科大学で乾癬6検体、日本医科大学でアトピー性皮膚炎18検体、乾癬25検体を収集し、理化学研究所に送付した。現在、日本人の乾癬患者を対象に、TNF-alpha阻害薬に反応する群とあまり反応しない群に分けて、遺伝子多型解析を行っている。また、研究分担者の玉利真由美らは、血清総IgE値が1000 IU/mL以上の日本人のアトピー性皮膚炎患者467名を対象にした解析で、ビタミンDの代謝経路に関与する遺伝子との相関を報告した。以上より、本研究は現在のところ、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
日本医科大学を中心に、引き続き検体収集を進めていく。また、得られた遺伝子解析結果と診療情報を統合することにより、亜型ごとに病態に関与する遺伝要因を引き続き明らかにしていく。アトピー性皮膚炎は臨床症状や臨床経過、検査値などの解析から、いくつかの亜型に分類できると近年考えられるようになってきた。例えば、8割の症例で血清IgE値は高値を示すが、残り2割の症例では血清IgE値は正常であり、前者は外因性アトピー性皮膚炎、後者は内因性アトピー性皮膚炎と呼ばれている。両者の発症に関与する遺伝要因の違いを明らかにしていく。 各薬剤への治療反応性に関与する遺伝要因も明らかにし、薬剤投与前に薬の効果を期待できる患者と出来ない患者を区別できるようにし、個々の患者に最も適した薬剤を選択できるようにしていく(テーラーメード治療)。今年度は、日本人の乾癬患者44例を対象に、TNF-alpha阻害薬に反応する群とあまり反応しない群に分けて、遺伝子多型解析を行った。今後はさらに症例数を増やして解析を続けていく予定である。これらの治療反応性に関与する遺伝子多型解析を行うことにより、テーラーメード治療に結びつけていく。 さらに、病態や治療反応性への関与が明らかになった遺伝要因に関して、RNAや蛋白の発現レベルの違いをRT-PCR、Western blot、FACS、ELISA、免疫組織染色などの方法を駆使して解析し、機能レベルで詳細な分子生物学的機序を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の購入費が予定より少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に消耗品の代金の一部として使用する計画である。
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