乳房外ページェット病は、その由来や細胞生物学的性質など多くの点が不明である。その理由としてがん研究に必須の細胞株が存在しなかったことが大きな原因である。申請者らは本疾患病変部由来の細胞株を樹立することに世界に先駆けて成功した(EMPE cell)。現在、本疾患はアポクリン腺由来の腺がんとされており、乳がんもしくは腺がんに準じた化学療法がなされている。しかし、乳がんその他腺がんに有効な抗がん剤は本疾患に対しては有効率が低いことが問題である。すなわち、本疾患は腺がんのなかでも、その他の腺がんとは異なる特異な性質をもつがんと考えられる。今回、われわれは樹立した乳房外ページェット病細胞株を用いた細胞生物学的な検討、特に増殖因子についての検討をおこなった。本疾患は一部の症例は男性ホルモンリセプター(AR)を発現しているが、EMPE cellもARを発現している。そこで今回、in vitroの系でEMPE cellにおける男性ホルモンの増殖活性の有無について検討した。その結果、EMPE cellは男性ホルモン依存性の増殖を示すことが確認された。さらに検討した結果、EMPE cellはEGFの主たるレセプターであるEGFレセプターの発現がないにもかかわらず、EGFは男性ホルモンよりも強い増殖促進効果を示した。ARはリガンドである男性ホルモンにより活性化されるが、それとは別経路で、EGFなどの増殖因子がリガンド非依存的にARの活性化を起こすことが知られている。EMPE cellにおいてはEGFなどの増殖因子によるリガンド非依存的な別経路のARの活性化が主経路である可能性が示唆された。そこでEGF存在下・非存在下におけるRNAマイクロアレイ実験を行った結果、予想に反しARの活性化ではなく他分子を含む他の経路の活性化が示唆される結果を得、詳細を解析中である。
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