Long interspersed nuclear element-1 (LINE-1またはL1)は、ヒトゲノムの約17%を占める、レトロトランスポゾン配列の一種である。近年の研究において、LINE-1は成体内において、神経前駆細胞ゲノムDNA内で転移・増幅していることが示されている。さらに申請者らは、統合失調症患者前頭葉由来の神経細胞ゲノムにおいて、健常者と比較してLINE-1コピー数の有意な増大を検出した。これらの増幅したLINE-1が、神経機能に重要な遺伝子の近傍に挿入することにより、遺伝子の構造や機能を破壊している可能性がある。本課題では、統合失調症患者前頭葉のゲノムDNAにおいて、LINE-1が挿入されているゲノム領域の詳細な決定を行い、統合失調症発症におけるLINE-1挿入の影響を検証することを目的とした。 申請者らは、健常者前頭葉からセルソーターを使用して、神経細胞由来の細胞核を単離した。その画分から得られたDNAを使用して、LINE-1の3'側のゲノム領域を増幅するPCRおよびMiSeqを使用した次世代シーケンス解析を行い、ヒトゲノムのレファレンス配列 (hg38)と比較解析することによって、新規に挿入されたLINE-1の同定を行った。その結果、LINE-1新規挿入は、健常者前頭葉神経細胞において、1細胞あたり数十~百ヶ所程度検出された。オントロジー解析を行ったところ、神経機能に関与する遺伝子群の近傍に多くの新規挿入がおきていることが示された。今回、死後脳から神経細胞由来のゲノムを調製し、新規LINE-1挿入を検出する一連の技術を確立した。今後はこの技術を用いて、統合失調症患者の解析を行う予定である。
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