研究課題
我々のグループは、統合失調症の発症に大きな影響を与える稀な変異が存在する可能性が高いと考えられる多発罹患家系について連鎖解析を行うとともに、エクソーム解析に基づいてUNC13B遺伝子V1525M変異が疾患とほぼ共分離することを見出している。この研究成果を発展させ、1) 多発罹患家系の連鎖解析とエクソーム解析、2) 発端者・両親トリオのリスク遺伝子リシークエンス、3) 症例・対照サンプルの多段階関連解析という3つのアプローチの組み合わせによりリスク遺伝子を確定し、死後脳研究によりリスク遺伝子の脳内発現異常を明らかにすることが本研究の目的である。平成27年度は、まず多発罹患家系のパラメトリック解析を行い、陽性領域を絞り込んだ。そして、家系内の罹患者2人、非罹患者1人のエクソーム解析データを用いて、以下の4つの条件を満たす変異を選択した。1) 連鎖解析により絞り込まれた陽性領域内にある変異、2) 罹患者2人が共有し、非罹患者には存在しない変異、3) 機能的意義を有する可能性の高い変異(ナンセンス変異、フレームシフト変異、ミスセンス変異など)、4) アレル頻度が1%未満の稀な変異。この結果、6個の変異が選択された。平成28年度は、昨年度に選択された6個の候補リスク変異について、直接シークエンス法により、家系内のすべてのサンプルをタイピングした。しかし、疾患と共分離する変異は存在しなかった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、平成27~28年度で統合失調症多発罹患家系について連鎖解析およびエクソーム解析を行い、候補リスク変異をほぼ同定することができた。従って、概ね順調に進展していると考える。
6個の候補リスク変異の中、家系内で疾患と共分離するものはなかったが、リスク遺伝子内の異なる変異も統合失調症の発症に寄与するアレル異質性の可能性があるため、統合失調症発端者・両親110トリオについて、リスク遺伝子のタンパク質コード領域をリシークエンスし、リスク遺伝子内の稀な変異を網羅的に検索する。同定されたリスク変異について、大規模症例・対照サンプルを用いた関連解析を実施する。これらの結果から統合失調症多発罹患大家系において同定されたリスク変異が特定の家系のみでなく、一般に統合失調症の発症リスクに大きな効果を有していることを確認する。本研究で得られる成果を基盤として、統合失調症の発症機序を解明し、新規の診断・治療法を開発し臨床応用に結びつけることが最終的な目標である。
平成27年度のエクソーム解析により選択された6個の変異のうち、疾患との共分離が確認された変異が存在する遺伝子をリスク遺伝子として、大規模関連解析を行う予定であった。しかし、この方法ではリスク遺伝子を特定することができず、続く関連解析を行うことができなかった。このため、関連解析に用いる試薬類を購入する必要がなくなり、次年度使用額が生じることとなった。
6個の候補リスク変異の中、家系内で疾患と共分離するものはなかったが、リスク遺伝子内の異なる変異も統合失調症の発症に寄与するアレル異質性の可能性があるため、統合失調症発端者・両親110トリオについて、リスク遺伝子のタンパク質コード領域をリシークエンスし、リスク遺伝子内の稀な変異を網羅的に検索する予定である。さらに、同定されたリスク変異について、大規模症例・対照サンプルを用いた関連解析を実施することを検討している。こうしたリシークエンスや関連解析に用いる試薬類に次年度使用額を充てる予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件)
Psychiatry and Clinical Neurosciences
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1111/pcn.12526
Molecular Psychiatry
10.1038/mp.2016.88
American Journal of Medical genetics. part B, neuropsychiatric genetics
巻: 171(6) ページ: 797-805
10.1002/ajmg.b.32444