研究実績の概要 |
うつ病の発症機序の1つとして、「うつ病患者はストレスに対して脆弱な生物学的素因を有し、環境ストレスに対して適応することができずにうつ状態に陥る」といった“ストレス脆弱性仮説”が支持されている。申請者のこれまでの解析から、ストレス脆弱性の臨界期は脳発達期にあると推測するものの、海馬神経新生と行動制御・細胞機能との関連研究は専ら成獣動物を用いており、脳発達段階における海馬神経新生とストレス脆弱性との関連は不明である。 平成28年度までに、養育期における海馬スタスミンの発現・機能異常が成体になってからのストレス反応性に影響を与えることを見出した。すなわち、ストレス脆弱性の臨界期ならびに候補原因分子の同定ができた。 平成29年度はこれらの知見をさらに発展させ、以下の点を新たに見出すことができた。 1)スタスミンは微小管活性を負に制御する。そこで微小管活性促進剤でありFDA承認薬でもあるpaclitaxelをストレス脆弱性マウスの脳内に直接投与し(10nM, 1ul/side, n=20)、海馬神経新生ならびにストレス脆弱性への効果を解析した。その結果、paclitaxel投与により神経新生(分化)の促進とストレス耐性を確認した。 2)ストレス脆弱性マウスにおける神経新生低下の原因を環境要因(養育行動)の面から検討した。具体的には、ストレス脆弱性仔マウス(BALB/c)を高養育行動で知られるB6マウスの母親に養育させた(乳仔入れ替え実験)。3週齢の時点で海馬歯状回におけるスタスミン活性を解析した。その結果、B6マウスに養育されたストレス脆弱性マウスは、神経新生亢進を示し、環境要因によるスタスミン活性がその後のストレス反応性を制御していることが示唆された。
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