申請者らは臨床活動の中で、疾患の均質化に寄与すると考えられる疾患特異的な中間表現型としての身体表現型を有する発端者から日本人統合失調症多発家系を見出した。また、家系の臨床遺伝学的研究を行い、家系構成員12名中4名が特異な身体表現型を有して、統合失調症もしくはその類縁疾患に罹患していることを明らかした。本家系例に対してDNAアレイ(Human Mapping 100K array)によって全ゲノム遺伝子連鎖解析を行い、LOD Score 2.5の領域を同定した。ハプロタイプ解析から1.7cMまで連鎖領域の絞り込みを行い、同領域に関してエキソームシークエンス解析を行ったところ、絞り込んだ連鎖領域内に存在する遺伝子X内に本家系内発症者にのみに共分離するアミノ酸置換(Arg>Thr)を伴うc.2173C>T変異を同定した。本変異は日本人SNVデーターベース(2KJNP)上にも存在せず、他の統合失調症患者131名においても存在しない非常に稀な変異であり、in silico解析ではprobably damagingの結果であった。100アリルのCNV解析でも本遺伝子にCNVは存在しなかった。本遺伝子産物の機能はヒストン修飾に関連する。患者由来のリンパ芽球様細胞を用いてヒストン修飾に関する活性を測定したところ、患者由来のリンパ芽球様細胞と健常者由来のリンパ芽球様細胞の間で有意な活性の差は見出すことができなかった。一方、リアルタイムPCR法による解析では、遺伝子Xは健常者よりも有意に遺伝子発現が低かった。本遺伝子産物と同様の活性を有するタンパク質が複数あるため、患者由来のリンパ芽球様細胞を用いた活性測定では明らかな差異が見いだせなかったが、発生におけるいずれかの段階において本変異によりハプロ不全による異常が生じ、ヒストン修飾の異常によって他の遺伝子発現に影響を与えていることが予想された。
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