研究課題
研究目的:種々の状況証拠からオリゴデンドロサイトやその前駆細胞の機能低下が統合失調症の病態形成に関与する可能性が想定されているが、決定的な発症機序解明には至っていない。本研究では、「オリゴデンドロサイト関連遺伝子の発現を脂質関連の核内受容体(転写因子)が上位で制御する可能性」に着目して解析を行った。平成28年度の研究実績:(1) OLP6細胞株(オリゴデンドロサイト系細胞)に対してRXRパンアンタゴニストHX531の添加実験を行った結果、HX531を添加した細胞ではオリゴデンドロサイト系遺伝子Cldn11, Mbpの発現が低下することを見出した。(2) 培養細胞の系でオリゴデンドロサイト系遺伝子の発現を負に制御すると判断されたRXRパンアンタゴニストHX531を野生型マウスに腹腔内投与し、精神疾患関連行動試験を行ったところ、HX531投与マウスではY迷路試験、オープンフィールド試験に行動変化が認められた。(3) 毛根細胞を用いた診断技術を開発する目的で、健常者および統合失調症患者の毛根細胞を用いて遺伝子発現解析を行った結果、統合失調症の毛根細胞において一部の核内受容体遺伝子の発現低下が認められること、核内受容体遺伝子の発現がオリゴデンドロサイト系遺伝子の発現と正相関すること、を見出した。意義・重要性:本研究により、(1)統合失調症関連遺伝子として知られるオリゴデンドロサイト関連遺伝子の発現を脂質関連の核内受容体(転写因子)が上位で制御する可能性、(2)核内受容体/オリゴデンドロサイトのパスウェイが統合失調症の病態生理と関連する可能性、が示された。この結果は、核内受容体を中心とした全く新しい統合失調症病態メカニズムの検討につながるため、統合失調症研究を大きく進展させる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、培養細胞を用いて核内受容体によるオリゴデンドロサイト系遺伝子発現制御機構の検証を行った。また、核内受容体の機能低下と統合失調症発症脆弱性との因果関係を個体レベルで明らかにするため、薬理学的動物モデル(核内受容体アンタゴニスト投与マウス)を用いて、精神疾患関連行動試験を行った。さらに、バイオマーカーを開発する目的で、健常者および統合失調症患者から採取した毛根細胞を用いて核内受容体遺伝子およびオリゴデンドロサイト系遺伝子の遺伝子発現解析を行った。ヒト生体試料を用いた解析は、当初の予定にはなかったが、統合失調症の病態生理と核内受容体/オリゴデンドロサイトのパスウェイを検証するために必要な項目であると考え、解析を実施することにした。その他の実験は、当初予定していた項目である。よって、概ね順調に進展していると判断した。
1. 最終年度は、統合失調症の病態メカニズムと核内受容体/オリゴデンドロサイトのパスウェイをさらに深く追求するため、遺伝子改変マウスを用いた解析を実施する予定である。既に、CRISPR-Cas9n法によりRxra ノックアウトマウス、Ppara ノックアウトマウスを作製し、解析の準備を行っている。これらのマウスを用いて、精神疾患関連行動解析を行い、統合失調症様表現型の有無を検証する。さらに、これらのマウスの脳の遺伝子発現解析を行い、オリゴデンドロサイト系遺伝子の発現変動の有無を検証する予定である。2. 統合失調症モデル動物に、核内受容体アゴニストを投与して治療効果の有無を検証する。モデルマウスに核内受容体アゴニストを投与し、統合失調症関連の行動変化が改善するか、組織学的異常が改善するか、等を検討する。
統合失調症モデル動物に投与するための、核内受容体アゴニストを購入する。1) 核内受容体アゴニストは価格が高い、2) 効果が発現するまで3週間以上かかることが判明した、以上の理由により、試薬購入費が当初の予定より高額となった。
統合失調症モデル動物に対して、治療効果の検証のため3週間から1ヶ月程度核内受容体アゴニストを投与する。これらのマウスを用いて、精神疾患関連行動解析を行い、統合失調症様表現型の改善の有無を検証する。さらに、これらのマウスの脳の遺伝子発現解析を行い、オリゴデンドロサイト系遺伝子の発現変動の有無を検証する予定である。
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Schizophr Res.
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10.1016/j.schres.2017.01.003.
生体の科学
巻: 67 ページ: 486-487