研究課題/領域番号 |
15K09815
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究 |
研究代表者 |
戸田 裕之 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 精神科学, 助教 (00610677)
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研究分担者 |
丹生谷 正史 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 病院 精神科, 講師 (00228256)
清水 邦夫 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 防衛医学研究センター 行動科学研究部門, 教授 (00531641)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | PTSD / 母子分離ストレス / 環境富化 / 学習性無力 / サイトカイン / エピジェネティクス / FKBP5 |
研究実績の概要 |
シャトル箱によるラットPTSDモデルを用いて、環境富化、母子分離ストレスのPTSD様行動に与える影響とその分子生物学的基盤に関する研究を行った。 前年度までの結果にて、環境富化によってPTSD様行動が部分的に改善し、特に、自発運動促進のためのランニングホイール(RW)が重要な役割を担っていることが示唆された。本年度は、その影響をより正確に評価するために、通常飼育、玩具のみの飼育、RWのみの飼育、玩具とRWを合わせた飼育(通常の環境富化)の4群を設定して、PTSD様行動への影響を検討している。報告時では、研究の実験途中である。行動実験実施後に、海馬、扁桃体、前頭前野の組織を切り出して、各神経栄養因子等の遺伝子発現量の測定も行っている。 母子分離ストレス(MS)によるPTSDモデルへの影響では、前年度までの行動実験で、恐怖条件付けの増強効果、学習性無力行動の増加を示した。本年度は、その背景となる生物学的な機序の解明のための研究を行った。24種類のサイトカインの変動を測定したところ、MSの主効果はIL-7, GRO/KCで有意であり、IL-7, IL-18, GRO/KCがMSとPTSDで有意な交互作用を示した。また、母子分離ストレスを負荷したラットの海馬、扁桃体、前頭前野組織からmRNAを抽出して、ストレスに関連した種々の遺伝子発現量を測定している。現時点での興味深い結果としては、海馬組織のmRNAのFK506 binding protein 5(FKBP5)がMSで有意な変化を示していた。更には、海馬から抽出したDNAの網羅的なメチル化解析にてMSによって有意にメチル化が変化する遺伝子を複数同定している。海馬や血清、血漿の網羅的なmiRNA解析にてもMSで変化するmiRNAを複数同定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレス脆弱性があるFischer344とWistarラットを用いて、遺伝的な要因の影響も検討する予定としていたが、前年度に実施した予備的な実験で、母子分離ストレスを負荷したFischer344ラットがWistarラットと比較してPTSD様行動の増悪を認めなかった。よって、現在は、Wistarラットに絞って、母子分離ストレスや環境富化のPTSD様行動への影響とその分子生物学的な機序の解明のための研究を行っている。 当初の予定では、当該年度は脳内への薬剤の局所注入によるPTSD様行動の変化や、脳内局所の遺伝子操作の実験を開始する予定であったが、その実験までは至っていない。一方で、ストレスやレジリエンスに関連した網羅的なサイトカイン、メチル化、miRNAの解析によって、今後の研究を進めていくうえで興味深い結果を得ることが出来ている。よって、当初の予定とは異なっている面もあるが、研究の進捗状況は概ね順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
環境富化のPTSD様行動への影響を検討する研究では、環境富化の内容による行動の影響を引き続き検討していく。種々の好ましい環境が精神面へ影響を与えることは、多くの臨床研究や実臨床でも示されていることである。しかしながら、環境のどの因子が精神面に良い影響を与えるかについての研究は少ない。運動を促進するRWとリラクゼーション等に影響を与える玩具の影響を個別に検討することで、これらの要因を明らかにすることが出来ると考える。また、環境富化は種々の神経栄養因子の活性化を促すことが知られており、環境富化のPTSD様行動改善の病態を解明するために、これらの遺伝子発現量の各脳部位での解析も進めていく。 母子分離ストレスを用いた研究では、PTSD様行動などの脆弱性に寄与する可能性がある幾つかの分子を同定している。FKBP5はglucocorticoid receptor (GR)の核内移行とGR依存性転写活性を調節して hypothalamic-pituitary-adrenal (HPA)系に影響を与えるとされている。HPA系の異常はearly life stress (ELS)のストレス脆弱性に関連する重要なメカニズムとされている。また、FKBP5の遺伝多型や特定の部位のメチル化はPTSDと有意に関連するとの臨床研究がある。我々の母子分離ストレスでも海馬のFKBP5のmRNAが変化していることは確認しており、今後は、クロマチン免疫沈降法を用いてGRのFKBP5のglucocorticoid-responsive elementsへの結合が変化するかどうかを検討したいと考えている。また、網羅的なメチル化解析、miRNA解析、サイトカイン解析で変化が同定された遺伝子についても、さらに機能的な解析を実施してく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物の使用の匹数が少なかったこともあり、若干の、余りが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度への持ち越し額は少額なため、当初の予定通りに、使用できると考えている。
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