研究課題
難治例の多さや効果発現に時間がかかる点などからうつ病の治療薬として新しい作用機序による抗うつ薬の開発が臨床現場で切望されている。従来のモノアミン神経仮説からパラダイムをシフトさせ、非神経細胞であるグリアのうち、神経栄養因子の貯蔵庫としての役割に重要なアストロサイトに着目した。アストロサイトに対して、抗うつ薬が直接作用する抗うつ薬受容体の存在を今までの我々の研究で示唆していた。今回、その抗うつ薬受容体がリゾフォスファチジン酸受容体1(LPA1)であることを明らかにした。さらに、薬理学的な検討から、抗うつ薬にはLPA1の活性化作用がある可能性を見いだした。また、うつ病患者の臨床サンプルを用いた検討では、血中及び髄液中のLPAの合成酵素であるオートタキシン(ATX)濃度が健常者と比較して、いずれも有意に低下していることを見いだした。また血中のATX濃度は抑うつ症状と有意な負の相関を示し、うつ病治療により有意に増加することも見いだした。従って、うつ病の病態において、ATX-LPA系が低下しており、アストロサイトのLPA1を活性化することがうつ病治療として有用である可能性が示された。グリアのLPA1を標的とした創薬が抗うつ薬の新しいシードとなると考えられ、その開発の上で、血中ATXが中間表現型としての有力なバイオマーカーとなる可能性が示唆された。これらは従来のうつ病におけるモノアミン神経仮説から脱却する上で重要な知見であると考えられた。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Biol Pharm Bull
巻: 40 ページ: 1759-1766