研究課題/領域番号 |
15K09820
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藁谷 正明 東北大学, 加齢医学研究所, 非常勤講師 (50533775)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アディポネクチン / アルツハイマー病 / 脳脊髄液 / 血清 / 神経原性変化 / タウ |
研究実績の概要 |
[目的」アルツハイマー病(AD)の危険因子として、中年期(40代から50代)におけるメタボリック症候群(Mts)、コントロール不良のⅡ型糖尿病の罹患が知られている。Ⅱ型糖尿病とADの関連は脳内インスリン抵抗性の破綻が、異常アミロイど凝集、リン酸化タウの凝集を促進し、ADの病理像を誘発する可能性も示唆する。したがってMts、Ⅱ型糖尿病の予防、適切な管理は、老年期におけるADの発症、病態進展を阻止あるいは遅延される可能性があると思われる。したがって我々は。体内脂肪組織に豊富に存在し、インスリン感受性を改善する効果がある蛋白質であるアディポネクチン(以下APN)に注目しADの病態とAPNの関連について研究している。[方法」健常高齢者(NC)、軽度認知障害(MCI)及びAD群において、被験者のインフォームドコンセントを得て、血清と脳脊髄液(CSF)の同時採取を施行し、高感度ELISA法で血清とCSFのAPN量を測定した。CSF中のADバイオマーカーであるCSF中アミロイドベーター42とリン酸化タウタンパクもELISAで測定した。対象全例に対し頭部MRI(VSRAD)とMMSEを施行し、海馬萎縮と認知機能を調べた。さらにAD患者の剖検脳を用いて、脳内APNの形態学的、生化学的解析を行った。[結果」血清中APNは、MCI、ADでNCより上昇していた。それに対し、CSF中APNはAD群でのみNC,MCIより低下していた。CSF中APN値は、MMSE、CSF中アミロイドベーター42値とは正の相関を認め、海馬萎縮とCSF中リン酸化タウ値とは負の相関を認めた。さらにADの剖検脳解析では、APNは神経原線維変化(PHF)に共存し、APNが異常タウに隔離されている事が推測された。大脳抽出サンプルを用いたウエスタンブロットでは、90-100kDaに相当するAPNの三量体がAD脳では低下していた.これらはAPNがADの病態に関与することを示しており、さらに検討が必要である。 (Waragai et al, Journal of Alzheimer's Disease 2016 in press)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
抗糖尿病因子であるアディポネクチンを脳脊髄液を用いて測定し、アディポネクチンの量に健常高齢者とアルツハイマー病患者で有意に低下していることを示した。 さらに、アルツハイマー病剖検脳の免疫染色解析でアディポネクチンが異常タウからなる神経原性変化に共存していることが認められた。これらの報告は今までになく、 抗糖尿病因子の欠乏(異常)がアルツハイマー病の病態に関与しうることを分子レベルで証明し、アルツハイマー病専門誌に2016年中に掲載予定であり、これはⅡ型糖尿病などの生活習慣病がアルツハイマー病の病態に分子レベルで関与することを初めて示唆した成果であることから、当初の計画より進展していると判断している。。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果に基づいて、血清中アディポネクチンの値とMRIを用いた海馬萎縮、MMSE等のバイオマーカーの継時的変化を追跡することが重要である。すなわち血清中のアディポネクチン値が高めで、脳脊髄液中に同因子が低めの対象者を縦断的に追跡し、数年後に アルツハイマー的病態に移行するか否かを検討することは重要である。 さらに、アディポネクチンはアルツハイマー病の予防、進行に有効であるかについて、 モデルマウス(アディポネクチンノックアウトマウス等)を用いて検討することも併せて 推進してゆきたい。 さらに他の抗糖尿病薬剤(抗耐糖能異常改善薬剤及び因子)にADの疾患修飾薬剤候補があるかを探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
的確な研究資金運用を行ってきたが、端数的に2853円が残り、次年度使用額とする。
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次年度使用額の使用計画 |
文房具(コピー用紙、プリンターのインクジェット等)に使用する。
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