研究課題/領域番号 |
15K09831
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
寺田 整司 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (20332794)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 老年期精神障害 / グレイン病理 / レビー小体病理 / 陽性感情 / 陰性感情 |
研究実績の概要 |
本年度は,英語のオリジナル論文を2つ発表することができた.1つは,陽性感情と陰性感情に焦点を当てて,アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症での違いを調べた研究である.アルツハイマー型認知症と比較すると,レビー小体病では陽性感情が有意に低くなっていたが,陰性感情には有意差は認められかった.一方,前頭側頭型認知症では,アルツハイマー型認知症と比較して,陽性感情は有意に低く,陰性感情は有意に高くなっていた.各疾患ごとに異なった特徴を呈することを,世界で初めて報告した.また,2つ目の論文では,アルツハイマー型認知症を対象として,陽性感情と局所脳血流との関連を検討した.陽性感情のスコアと,両側の前頭葉穹窿面の血流量に有意な相関が認められた.認知症患者を対象として,陽性感情に関連する脳領域を明らかにした研究は,世界でも初めてである. また,嗜銀顆粒病についても,複数の邦語論文を公けにした.嗜銀顆粒病の臨床症状として,記銘力低下以外に,早期の段階では精神病症候や気分障害の症候を呈する場合も少なくないことを示した.また,嗜銀顆粒病は,進行性核上性麻痺(PSP)や皮質基底核変性症(CBD)とともに,代表的な4リピート・タウオパチーの1つであるが,嗜銀顆粒病におけるPSPやCBDの病理を検討した報告は無い.我々は,嗜銀顆粒病では,非常に軽度のPSP病理が合併しやすいことを始めて明らかにした.非常に重要な内容と考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床情報の集積整理および検討が進み,研究成果が着々と公けになっている.英語の論文も2報が報告された.陽性感情と陰性感情に焦点を当てて認知症疾患ごとの差を明らかにした報告と,認知症における陽性感情と局所脳血流の関連を検討した報告である.どちらの報告も,認知症患者における陽性感情に着目した研究であり,世界でも初めての報告である.また,嗜銀顆粒病についても多くの総説を報告しており,研究は順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
入院した高齢者を対象として,同意の得られた症例について,詳細な検査を実施していく.背景情報として様々な臨床情報を,心理検査や症状評価も可能な班にで詳細に行い,さらに画像検査として頭部MRIや脳血流SPECTを必要な場合には行う. 器質性病変の影響を探るという観点から,精神症候・検査所見と脳血流との関連についても引き続き検討し,認知症疾患における症候の研究を続けていく.症例の蓄積を継続し,さまざまな視点から検討を加える.世界的に注目されていない領域,あるいは新たな視点を大切にしていく.嗜銀顆粒病とレビー小体病,アルツハイマー病などに焦点を当てていく. さらに,社会的な障害にも 認知症患者および家族の抱える困難さを全体として理解するには,「患者本人の問題」という視点だけでなく,「社会との関係における問題」という視点も重要と考える.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,ほぼ予定通りの額を使用したが,データの集積および入力が少し遅れたこともあり,僅かに次年度に繰り越しとなった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は,前年度に積み残したデータを早急に整理し,入力していく予定である.さらに,新たなデータ収集を続けて行う.データ管理や入力を実施できる人を続けて雇用する予定であり,繰り越した金額も含めて予算を組んでいる.また,関連する書籍や文献入手のための予算や,学会発表・論文投稿も予定しており,そのための費用や雑費も予算に含めている.
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