平成28年度に引き続き,本年度も多くの研究成果が得られ,英語の論文2報,日本語の論文3報が報告された.老年期の精神障害における器質性病変の影響を探るという観点から,老年期の精神障害における器質性病変,嗜銀顆粒病・進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症の重要性を示した論文を公けにした.また,老年期の精神障害に関する神経病理学的な解説の1つとして,嗜銀顆粒病などについて説明し,精神疾患に密接に関連した病理であることを示した. さらに,臨床の場で頻用される認知機能検査につき,その意義を解明する研究を実施し,成果を公表した.これは,188例のアルツハイマー型認知症(連続例)を対象として,Wechsler Memory Scale revised (WMS-R)の成績と局所脳血流の関連を検討した研究である.言語性記憶・視覚性記憶どちらの成績も,後部帯状回や楔前部の局所脳血流と相関していたが,言語性では左との相関が強く,視覚性では右との相関が強いという結果が得られた. また,アルツハイマー型認知症患者を対象として,「こころの理論」障害を検討した研究も報告した.具体的には,「こころの理論」に関する一次の信念課題であるアン・サリー課題を実施し,通過できた者は37%に過ぎないことを明らかにした.アルツハイマー型認知症では,初期の段階から,「こころの理論」に関する一次の信念課題においても障害が認められることを明らかにしたのは世界でも初めてである.また,アン・サリー課題の成績が,前頭葉機能検査と関連することも報告した. 以上の通り,大きな成果を挙げることが出来た.
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