研究課題/領域番号 |
15K09845
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
松永 寿人 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (20254394)
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研究分担者 |
中嶋 章浩 兵庫医科大学, 医学部, 病院助手 (00739229)
向井 馨一郎 兵庫医科大学, 医学部, 病院助手 (70739218)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 強迫性障害 / 強迫スペクトラム / 異種性 / 前頭葉機能 / チック関連性 |
研究実績の概要 |
「脳機能的妥当性検証による強迫スペクトラムの新規分類基準の提唱」を目的とした本研究では、主にOCD患者を対象に、様々なbiological markerを用い、OCDや強迫スペクトラムの異種性や連続性についての検討を行っている。例えば、言語流暢性課題やWisconsin Card Sorting Test, Trail Making Test, ロンドン塔課題などの前頭葉機能検査を施行、各課題得点を評価している。さらにこれら課題遂行下にfNIRS(functional near-infrared spectroscopy)を施行し、前頭葉各部におけるoxy-Hb濃度変化を測定している。この結果の一部は2015年のWPA regional meeting (Osaka)にて報告し、さらに”Evaluations of hemodynamic changes during neuropsychological test batteries using near-infrared spectroscopy in patients with obsessive-compulsive disorder.”として論文化し、現在Psychiatry Research誌に投稿中である。この中では、健常対象者に比し、OCD患者では前頭葉機能の低下が見られること、各課題が反映する前頭葉機能の相違、背外側前頭葉皮質の機能水準がOCDの症状重症度、あるいはcomorbidityに直接的・間接的に関連することなどを明らかにした。 加えて、チック関連性の有無により、実行機能、前頭葉機能に相違を認める可能性(チック関連性OCDの前頭葉機能はより高度)を見出しており、これらについてさらにfMRIを用いて検討を加えている。このような研究は世界的にもなされておらず、次年度の精神神経学会において報告予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に18歳以上のOCDおよび強迫関連障害患者76例よりインフォームド・コンセントを得てエントリーしている。それらに対しては、1) 発達歴、チック障害や溶連菌感染症の既往など身体的精神的既往歴、家族歴、2)OCD以外のAxis I 障害のlifetime comorbidity、及び人格障害の有無,3)Yale-Brown Obsessive-Compulsive Scale (Y-BOCS)を用いた症状分類や重症度を評価、4)不安や抑うつ、自閉症スペクトラム指数、QOLを評価するWHOQOL26, SF-36などの自記式質問紙などを行い、各患者の背景や精神病理学的特性に関する情報を集積している。約1/3はチック関連性であり、また自閉スペクトラム症を有するものも約10例含まれている。 これらには上述した実行機能検査に加え、NIRSの測定を順次行っており、さらに安静時fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)、DTI(拡散テンソル画像)、VBM(ボクセル単位形態計測)を施行している。 さらにこれらの患者に対して、APAの治療ガイドラインに基づき標準化した治療を行っており、SSRI抵抗性、非定型抗精神病薬による増強療法の効果の有無なども評価し、脳機能との関連性を調査している。 本研究では、OCDの異種性、その背景にあるbiological mechanismの相違の多角的検討を目指しており、今後さらにエントリー数200例を目標に進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本施設には、OCDあるいは関連症の患者がコンスタントに受診しており、現在受診・治療中の患者は約700例に及ぶ。また一週間当たり平均7例程度の新患が来院している。このため、本研究のエントリー数を増していくことに問題はない。また実行機能検査やNIRSは科内での測定体制ができており、この施行も容易である。一方、MRIなど脳画像検査に関しては、当院放射線科の協力のもと進めているが、現在は週に2-3例程度が上限となっており、このペースをさらに増せるよう調整を行っている。 学会発表や論文化は漸次進めていく予定であり、まずはcognitive componentの有無、あるいはmotoric componentの優位性や特性といった分類軸に従い、OCDスペクトラム障害の異種性や連続性を検討し、さらに罹病期間、治療経過による脳機能の変化にも注目していく。 また最近の臨床場面では、自閉スペクトラム症とOCDの鑑別がしばしば問題となるが、本研究の対象者には両者の併存例も相当数含めており、この様な患者の「こだわり」、「儀式的行為」のbiologicalな機序をOCD患者との比較の中で明確化し、この様な知見に基づく、治療ストラテジーも提言していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、いくつかの国内学会に加え、ギリシャのアテネにおいて開催された国際生物学的精神医学会(WFSBP)に参加したが、それらの参加に私費を当てたため、旅費が申請より少額に留まり、次年度使用金が発生することとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、韓国で開催される国際神経精神薬理学会(CINP)第30回ソウル世界大会に参加し、発表を行う予定である。また研究のさらなる遂行に評価尺度の追加購入が必要で、投稿予定論文も控えており、その英文校正にも支出が生じることが予想される。これらのために、今年度残金を合わせ助成金を合理的に有効活用したいと考えている。
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