研究実績の概要 |
Munc18-1タンパク質(遺伝子STXBP1)は神経シナプスに局在しシナプス小胞やsyntaxin-1分子と複合体を形成して神経伝達物質放出を制御しており、Stxbp1欠損により興奮性・抑制性のシナプス伝達が消失・低下する。この遺伝子の変異は重篤なてんかんと精神運動発達障害を示す大田原症候群をはじめヒト神経疾患に高頻度で見いだされている。本研究はMunc18-1(Stxbp1)欠損マウスを用いてMunc18-1分子欠損とてんかんとの因果関係を確立する。1.てんかん発生部位の同定、2.興奮性・抑制性シナプス伝達の寄与、3.てんかんの制御、4.記憶・学習、の各項目を検討し、シナプス伝達異常による難治性てんかんや知的障害の分子・神経機構を明らかにすることを目的とする。 先にマウス行動実験の結果がまとまり論文として報告した(Miyamoto et al., 2017)。Stxbp1 欠損マウスに歩行・運動障害はなかったが、不安行動の増加、記憶・学習障害、そして顕著な攻撃性の亢進が認められた。さらにグルタミン酸AMPA受容体による興奮性シナプス伝達を増強するAmpakine (CX516)の腹腔内投与により攻撃性は有意に抑制された。発達障害はてんかんや攻撃性を併発することも多く、これらマウスモデルの基本的知見が大田原症候群を含め広く発達障害の病態生理の理解につながることが期待される。 さらにマウスの大脳皮質脳波・筋電図記録とビデオ観察によりStxbp1欠損マウスに棘・徐波脳波と一時的行動停止を伴う欠神てんかん(けいれん発作無く意識消失を示すてんかんの一種で、カルシウムチャネル阻害剤で抑制される)の症状を確認した。次いでてんかん責任領域の同定、神経活動解析、領域・細胞種特異的神経活動操作を行った結果、新規のてんかん生成メカニズムを見出した(投稿中)。
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