神経系においてmiRNA は、神経発達やシナプス機能に重要な役目を果たしている。このmiRNA の生成に関与するDGCR8 遺伝子の発現低下は、マウスにおいては統合失調症のモデルの1 つとされている。また、ヒトにおいてはDGCR8 遺伝子を含む領域(22番染色体長腕の11.2領域)の欠失によって、統合失調症の発症リスクの増大が起こることが知られている。上記の背景から我々は、「miRNA の生成経路の異常による特定のmiRNA の発現低下が、神経系細胞の分化・発達に影響を及ぼし、統合失調症の発症リスクを増大させる一因」と考えた。この仮説を検討するため、本研究では、22q11.2領域の欠失を持った統合失調症患者由来のiPS細胞を用いて神経幹細胞や各種神経細胞への分化誘導を行い、miRNAの発現変化、神経分化や神経発達の異常を解析している。昨年度までの研究により、22q11.2欠失を持つ統合失調症患者由来の神経幹細胞では、神経細胞への分化効率の低下とそれに伴うアストロサイトへの分化促進といった神経分化異常が見られたことから、本年度の研究では、この分化異常に関わるmiRNAの分子メカニズムの解析を行った。患者由来のneurosphere(神経幹細胞の細胞塊) において発現低下していたmiR-106a/bやmiRNA-185は、神経幹細胞の「神経細胞:グリア分化比率」に関わっているMAPK14 (p38αをコードしている)を標的としており、実際に患者由来のneurosphereでは、p38αの発現量が上昇していた。更に、患者由来の神経幹細胞の培養時にp38の阻害剤を加えた場合、神経細胞及びアストロサイトへの分化効率の異常は回復した。以上の結果より、特定のmiRNAの発現低下によって起こる、p38αの発現上昇が、患者由来の神経幹細胞における分化異常に関わっていることが示唆された。
|